新渡戸稲造

岩手県花巻市に清澄な風格の漂う新渡戸記念館がある。新田開発に功績のあった新渡戸家を顕彰する記念館で、この中に稲造の業績も展示されている。


37歳の新渡戸稲造が書いた英文「武士道――日本の魂」(1899)は世界的なベストセラーとなった。この名著の影響は、日本人の出版物としては史上最大ではないだろうか。セオドア・ルーズベルト大統領が日露戦争の仲介を決心したきっかけになったのをはじめとして、「武士道」はこの100年間日本人の精神を世界に向かって発信し続けている。


この本は、日本の魂の源を、仏教神道儒教から説明しようしたものである。仏教からは、運命への信頼・静かな服従・禁欲的平静さ・死への親近感を学び、神道からは主君への忠誠・先祖への崇敬・孝心を学び、儒教からは君臣・父子・夫婦・兄弟・朋友の5つの倫理的関係を学んだと説明する。

仏教の慈悲心、神道の忍耐心、儒教道徳心、この3つが日本の魂の源であるという分析は、もともと外国人を対象とした本だけに、今日の日本人(100年後の日本人は外国人のようなものだ)にも納得感の高い内容である。


新渡戸の生涯における仕事は実に膨大だ。京都帝大教授(41歳)、一高校長兼東京帝大教授(44歳)、東京女子大初代学長(56歳)、深い学識と高潔な人格で感銘を与えた国際連盟事務局次長(58歳―64歳)時代と、重要な仕事が次々と舞い込んでくる。「勤めてもなほ勤めても勤め足らぬは勤めなりけり」という本人のため息が聞こえてくるような微笑ましい和歌も詠んでいる。また、病気や自動車事故(岩手県第一号)での療養中は、これ幸いと「農業本論」や武士道を著したり、「一日一言」という修養の好著の構想を練った。驚くべき教養と凄まじい勤勉さを一身に具現した新渡戸稲造は、「修養」の塊のような人物だった。


「終生の業は、その日その日の義務を完了するより外にない」という言葉は、襲ってくる問題を片っ端から誠実に解いていこうとした新渡戸の姿を髣髴とさせる。また「井を掘りて今一尺で出る水をほらずに出ぬといふ人ぞうき」は、与えられた仕事の都度、足元を掘り抜いた人のみが語りうる至言である。

後に「一日一生」を著す札幌農学校時代からの友人内村鑑三は、こういった処世訓を掲げる新渡戸に対して批判的だったと聞くが、気質の違いだろうか。


日本が国際連盟を脱退し、破局に向かい始めた1933年に太平洋会議に出席し病状が悪化、カナダ滞在中に71歳で客死した新渡戸稲造は、「事の成る成らぬは天に任し、自分はひとえにその日その日の務めを全うすれば足る」という言葉そのままに、その見事な生涯を全うしたのである。


追加:

新渡戸稲造記念館--憂国・国際・教育の士。

         『「願わくはわれ太平洋の橋とならん」という言葉は、

クラーク博士の「青年よ、大志を抱け」の応答歌だったもいえ

る。』(寺島実郎

         37歳の新渡戸が書いた英文の「武士道」は30を超える言語に

翻訳されており、日本の精神を解き明かす名著として今日も

読まれているという。

         武士道の源は、仏教(運命への信頼・静かな服従・

禁欲的平静さ・死への親近感)

                神道(主君への忠誠・先祖への崇敬・孝心)

                孔子(君臣・父子・夫婦・兄弟・朋友の

5つの倫理的関係)。



新渡戸稲造 にとべいなぞう

1862‐1933(文久2‐昭和8)


札幌農学校に学び、その後1884年東大に進むが中退し、アメリカに渡り勉強する。

アメリカからさらにドイツに渡り農業経済学や統計学を学び博士号をとる。

アメリカ婦人と結婚する。 母校の札幌農学校に迎えられるが病気で退職し、

1901年岩手県出身の後藤新平台湾総督府民政局)に招かれ台湾総督府に勤務。

1903年京都帝大教授、1906年一高校長を経て、東京帝大教授となる。

1918年には初代の東京女子大学学長。 また国際連盟事務局次長(1920‐26)となる。

「武士道――日本の魂」(1899)は英語で書かれ世界的なベストセラーとなった。

盛岡の岩手公園の二の丸跡には新渡戸稲造(にとべいなぞう)博士の

「願わくば、われ太平洋の橋とならん」 の碑もある。 5000円札のモデル 。

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この旅行中に目についた言葉などを紹介します。


新渡戸稲造

・終生の業は、その日その日の義務を完了するより外にない。

・事の成る成らぬは天に任し、自分はひとえにその日その日の務めを全うすれば足る。

・人を信ずるはよけれど、人を頼るは卑劣なり。

新渡戸の本の中で、細川幽斎の言葉が紹介されています。

「灸をたやさず」というのが面白い!

・物の成る人  朝起きや身を働かせ小食に忠孝ありて灸をたやさず

 物の成らぬ人 夜遊びや朝寝昼寝に遊山ずき引込み思案油断不根気