遺産コレクションのシステム--パウル・クレ-展

パウル・クレー展が東京近代美術館で開催されている。クレーは日本人には人気のある画家だ。
クレー(1879-1940年)は、生涯で描いた全作品のタイトル、制作年、番号、使った材料、用いた技法を記録をしている。そのためもあって、クレーの作品は、文学、哲学、音楽、美術家たちの創作活動に影響を与えてきた。
「何を使い、どのように作ったのか」というテーマで、今回180点がそろった。

クレーはヴァイマールのバウハウスの教授をしていた。そこでは「理念に従って造形する(描いたり塗ったりする)際に私が得た経験を伝えることが、ここでの私の仕事なのである」と述べている。
クレーは、1911年32歳から制作した作品の目録を作り続けた。4歳の時の素描から始まった目録は、生涯で9600点を超えている。

クレーは絵画の二大要素である、線描と色彩について、様々な工夫を続けた人である。
この展覧会は6つに分かれているのだが、そのテーマをあげてみると、それがわかる。「写して・塗って・写して」。「切って・回して・貼って」。「切って・分けて・貼って」。「おもて・うら・おもて」。
クレーは生涯で5つのアトリエ(ミュンヘン、ヴァイマール、デッサラ、デュッセル、ベルン)を持ったが、そのアトリエもコダックのカメラを用いて撮影している。アトリエも作品の一つという意識を持っていた。
以下が印象に残った。

  • 花ひらく木
  • 花ひらいて
  • 山への衝動
  • 異人たちの一座

クレーは全作品の中から明確な目的のためにある作品群をひとまとめにしておいた。それは遺産コレクションである。それを「特別クラス」と呼んでいた。作品を自己管理するためのシステムを独自に編み出したのだ。特別クラスは8つの価格等級の上に置かれ、非売品とされた。クレーの手元に置かれた特別クラスの作品は、いつでも参照が可能で、新しい作品を生み出すためのアイデアの源になった。この特別クラスは後世への遺産として残すべきクレー自身が判断した精髄だった。

抽象と具象の間にあるような作品群の芸術性も人気があるのだが、私は遺産コレクションを自らの手で、それを意識しながら、生涯を通じて完成させた考え方と実行力に興味を覚える。