文机の塵はらひ紙のべて物まだ書かぬ白きを愛でぬ--森鴎外記念館

本日のフィールドワーク。
11月1日にオープンした文京区立森鴎外記念館を訪問。
生誕150周年記念事業として千駄木の鴎外旧居・観潮楼跡に建てた森鴎外記念館である。
1962年の鴎外生誕100年では、文京区立鴎外記念本郷図書館に鴎外記念室ができた。2006年には図書館移転に伴い、記念室は独立して本郷図書館鴎外記念室となる。そして生誕150年の今年、瀟洒で重厚なこの記念館が建った。

映像で3人の作家が鴎外を語っていた。
名誉館長でもある加賀乙彦は、鴎外と同じく医者と作家の二股の人であり、鴎外の心を読む。医学をまなんだ者としての研究ができなかった、そして文学も翻訳者だったことに悲しさを感じていただろうという。乃木大将の殉死にショックを受けて、陸軍を辞めて起とうとするが、10年足らずの期間を書くことができた。その間のものはすべて傑作だった。「空車」(むなぐるま)という作品があるが、それは何も積んでいない大八車の事で、自身の医学の悩みを示しているのだそうだ。

同郷の安野光雅は、「即興詩人」は百科事典であり、山田風太郎と同じく、無人島で過ごすならこの1冊を持っていきたいとのことだ。「命短し恋せよ乙女、、」などの文語体が魅力。

鴎外の本は全て読んだという平野啓一郎は、「高瀬舟」「舞姫」「阿部一族」などを話題にしていた。あらがってもどうしようのないものがある、足るを知ることだ、という「諦念」が鴎外にはある。3・11以降に鴎外の作品を読むと不思議な慰めがあるそうだ。鴎外を読むということは日本語を知るということであり、世界とつながることだ、と最大級の賛辞を送っている。

いくつか鴎外の言葉を拾ってみた。

  • やはりふた親どもの意に遵い陸軍に出仕の外は御座無く候(不本意な就職)
  • 汝の血を冷やかにせよ。汝の血を冷やかにせよ。何れの場合なるを問わず、怒りは人を服する所以にあらざればなり。(不本意な転勤)
  • 学問の自由研究と芸術の自由発展とを妨げる国は栄える筈がない。
  • 文机の塵はらひ紙のべて物まだ書かぬ白きを愛でぬ

売店で買った「即興詩人」「阿部一族」「舞姫」、そして「鴎外の恋 舞姫エリスの真実」(六草いちか)を今から読む。

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JR東日本で研修講師。