啄木の歌から

いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指のあひだより落つ


たはむれに母を背負いて そのあまり軽きに泣きて 三歩あゆまず


こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ


はたらけど はたらけど猶わがくらし楽にならざり じっと手を見る


友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ


浅草の夜のにぎはひに まぎれ入り まぎれ出で来しさびしき心


やはらかに柳あをめる 北上の岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに


ふるさとの山に向かひて 言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな


こころざし得ぬ人々の あつまりて酒のむ場所が 我が家なりしかな


よりそひて 深夜の雪の中に立つ 女の右手(めて)のあたたかさかな


朝の湯の 湯槽(ゆぶね)のふちにうなじ載せ ゆるく息する物思ひかな


こころよく 春のねむりをむさぼれる 目にやはらかき庭の草かな


やや長きキスを交はして別れ来し 深夜の街の 遠き火事かな


何となく、今年はよい事あるごとし。 元日の朝、晴れて風なし


その親にも、親の親にも似たるなかれ- かく汝(な)が父は思へるぞ、子よ