「日本沈没」

1973年、大学を卒業して社会人となった年に発表された小松左京日本沈没」は上下巻あわせて400万部を超える空前のベストセラーになった。同じ年に公開された映画も記録的なヒットとなった。あるとき、「小松左京が第二部を考えている。それは世界各国で難民となった日本人の苦難の物語だ。これが本編である」と語っていたのを思いだす。その後「あまりに大きいテーマであり書けない」と発言していたが、33年後の2006年7月に続編小説「日本沈没 第二部」(小学館)が上梓された。小松左京谷甲州の合作である。構想は小松だが、実際に書いたのはアジアに詳しい谷甲州である。


2006年版封切り2日目に映画「日本沈没」を観た。夜9時20分からの映画を観たのだが、ほぼ満席だった。若い人も多かったし、昔観たと思われる中年夫婦も多かった。私自身は藤岡琢也主演の昔観た映画の記憶はほとんどなかった。今回はSMAP草なぎ剛が好演していた。

実際の地名と地震津波の映像、国会議事堂、東京タワー、六本木ヒルズなどの倒壊シーンは迫力があった。


印象に残ったのは、大地真央演ずる女性の文部科学大臣兼危機管理担当大臣の危機に立ち向かう決断力と凛々しい言動だった。大臣は災害研究チームと海外退避計画を指揮し、全力で立ち向かい、直感とイマジネーションを信条とするかつての夫である科学者田所雄介(確か原作のモデルは梅棹忠夫先生)とプロジェクトをなんとか成功におさめる。

また、もう一人の女性主役の柴咲コウ演ずる東京消防庁ハイパーレスキュー隊阿部玲子阪神・淡路大震災でレスキュー隊に助けられる)は仕事への使命感で、恋人のクールな小野寺俊夫に影響を与え太平洋プレート切り離しという英雄的な行為に導いていく。

小野寺の母で会津の酒造家を守る母、玲子の叔母でひょっとこの女将、そして駿河地震で家族を失った倉木美咲という少女、などこの映画の主人公は女性である。


日本経済新聞の愛読欄である「私の履歴書」は、今月は原作者の小松左京である。既に就職をしてアトムという雑誌の編集を担当している年齢の頃の記述であるから、小説「日本沈没」についての思い出と今回の映画の狙いがそろそろ出てくる頃だろう。映画の話題が盛り上がることだろう。当然のことだが、メディアを使ったうまい演出である。


昨今の不穏な国際情勢もあり、しばらくは「日本沈没」が話題の主役になるであろう。