連載「団塊坊ちゃん青春記」第10話---大学祭2

私達探検部が考え出したのは、屋台で探検料理を売ろうという案でした。

材料はヘビ、カエルが主なものです。材料集めのために数週間前から材料収集部隊の編成にとりかかりました。ヘビをつかむのは平気という部員と、家の近くに食用カエルがたくさんいるという部員の両方をそれぞれのリーダーに任命し、ヘビ班に5名程の新人をつけ、カエル班にも同数の新人をさずけました。それから数週間、週一回の部会のたびに部室のブリキカンの中にヘビやカエルが続々と集ってきます。


いよいよ明日が大学祭という日、部室に入ると「久恒さん、大変です。ヘビが逃げました。」と下級生が青い顔をしています。今から調達するのも難しいので皆で必死になって部屋の中をさがしますと、大きな青大将が金庫の裏から悲しげな眼をしてのぞいています。早速つかまえて放りこんだのは言うまでもありません。


さて当日。料理の名人であるK先輩と、新入部員のくせにヘビやカエルの大好きなF君が先頭にたっていよいよ探検料理の開始です。食用ガエルをどうやって殺すか。ペンチで頭を一発、キョーリョクになぐって気絶させるのです。女性の新入部員でTという豪傑女が何匹もこの方法で殺すのに飽きてしまい、なんと部屋の壁に投げつけて気絶させる方法を開発しました。私達はいざとなった時の女の残酷さに身ぶるいしたものです。女って恐ろしい。ヘビの方は皮をむいてカバ焼きにします。まむしは味には定評がありなかなかうまいのですが、青大将は大味でありシマヘビも美味とは言えません。


夕方、屋台のテントのひとつに陣どった探検部は、「大学名物、探検定食一人前たったの九〇円!」という看板をかかげて呼び込みを開始しました、献立はヘビのカバ焼、シマヘビの骨のスープ、食用カエルのモモ肉のからあげ、それにごはんです。私も初めて食べたのですが食用ガエルの肉は本当においしい。味はとり肉に似てはいますが、まろやかな味ははるかに上です。したがってこの探検料理は、まさにとぶように売れます。若いカップルがどんどん入ってきます。最初はもの珍しげに入ってくるのですが、探検定食を口にすると、「おいしい、おいしい」と満足の体です。私達は調子にのって「ヘビはいかが、カエルがうまい、天下一品の探検定食だよ」と呼びこみをやっていると、あるカップルの女性が、カエルのモモ肉のからあげを口にしながら「これがホントにカエルなのお?」と信用していない様子です。私は早速、「おい、いいか。カエルをそのままの姿で揚げてこい」と下級生に命令を出しました。数分後、大きな食用ガエルが手足をひらいたままの姿で揚がってきました。「ハイ、これがカエルの姿揚げだ」とその女性のテーブルに出すと、「キャー」と叫び気持悪そうに帰っていきました。


始めてから二時間もたつと、「もうヘビやカエルが底をつきました。」との報告です。残念無念、材料がなくなっては仕方ありません。クラブ一同楽しく過した大学祭でした。ところが悪い客が一人いたのです。私の出身高校の後輩の一人が探検定食を食べたあと金を払わずに逃げ出したのです。私は「追えー」と命令をだしたのですが、その男は夜の闇の中に消えてしまいました。「ふてえ野郎だ、ただじゃおかねえぞ」と皆でフンガイしました。その後、Nという無銭飲食の男は大手商社に入社したといううわさを聞きました。商社マンにむいていたのかも知れません。