出版社が出している読書情報誌を書店で時折もらうことがある。
岩波の「図書」、集英社の「青春と読書」、小学館の「本の窓」などがあるが、名うての作家や読書人が書くエッセイは読み応えがあるものが多い。
岩波文庫創刊80年記念の臨時増刊号「図書」は、「私の三冊」がテーマだった。
岩波文庫は、1927年7月に夏目漱石の「こころ」など三冊を刊行し、2007年は創刊80周年にあたる。1927年は昭和2年だから、岩波文庫は昭和2年生まれということになる。
岩波文庫のうち、今日なお心に残る書物は何か。書名と短評を各界の識者に問うた結果を並べた特集号である。232人が答えを寄せている。
最も多くの支持を集めたのは、「きけ わだつみのこえ」である。10年前は「「いき」の構造」、20年前は「銀の匙」だった。
関心を惹かれた人物と書名を挙げてみる。
犬養道子「文学に現はれたる我が国民の思想の研究」
小川和久「孫子」
奥村宏「湛山回想」
小田実「アリランの歌」「一外交官の見た明治維新」「人権宣言集」
カンサンジュン「日本イデオロギー論」「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
田沼武能「古寺巡礼」
寺島実郎「後世への最大遺物・デンマルク国の話」「山月記・李稜」「東洋的な見方」
畑村洋太郎「きけ わだつみのこえ」「手仕事の日本」「野菊の墓」
森清「幸福論」(ラッセル)「幸福論」(アラン)「幸福論」(ヒルティ)
養老孟司「ファーブル昆虫記」「ソクラテスの弁明・クリトン」「五重塔」
渡辺利夫「幸福論」(ラッセル)
ここに取り上げ人物が選んだ文庫を読みたいものだ。
書名もさることながら、短評にその人を現すキーワードが盛り込まれているように感じた。
養老孟司「ソクラテスの弁明」(これで理屈をいうことを覚えたのかもしれない)
半藤一利「海舟座談」(鬱屈の想いのあるとき、この本を読むことにしている)
カンサンジュン「日本イデオロギー論」(徘徊しだした「日本イデオロギー」を撃つ)
小川和久「孫子」(戦争回避について思い惑うとき、迷わずひらく)
寺島実郎さんは内村鑑三の「後世への最大遺物・デンマルク国の話」では「「真面目なる生涯」という言葉が心を打つ」と述べている。中島敦の「山月記・李稜」では「筋道を通す人生とは何かを悩んでいた頃、深く考えさせられた」とある。鈴木大拙の「東洋的な見方」では「西洋と東洋の間に立ち、自らのアイデンティティーを模索する者」と自らを位置づけていた。
「私の三冊」もえらぶことにしようか。