報道写真家・山本こう一さんが6月に出版した「日本人が行けない「日本領土」」(小学館)を読んだ。私たちは、日本を取り巻く国境の現実についての知識に乏しいことがよくわかる迫真のレポートである。
北方領土。
中立条約を破って宣戦したソ連が侵攻し、占領され、日本人島民が追い出された。
竹島。
朝鮮戦争中に韓国大統領が一方的に領有宣言を行い、武力占拠が続いている。
尖閣諸島。
石油資源埋蔵の可能性が出ると突如領有権を主張した台湾と中国による講義活動が続く。
沖の鳥島。
満潮時に海面から16cmしか頭を出していないが、全島沈没が時間の問題となっている。
南鳥島。
米国から平和裏に返還された日本最南端の島だが、民間人の上陸は厳しく制限されている。
こういった国境に位置する島々を、1990年5月の択捉島から始まって、実に16年間にわたり取材した文字通りの労作である。
報道写真家らしくカラーと白黒の写真が随所に散りばめられているが、ほとんどはこれら国境の島々への上陸まつわるエピソードが文章で綴られている。
また、それぞれの島と関係の深い各氏と著者との対談も興味深い。現総理の安部晋三、北方領土問題では新党大地の鈴木宗男、また若手の政治家や日本財団の職員などとのやりとりが、国境の島の抱える問題点、つまり日本という国の問題をを浮き彫りにしている。
「日本の国境地図」という地図を眺めえてみると、領海としての接続水域は小さいが、1996年に設定された排他的経済水域(EEZ)は実に広い。EEZを含むと日本は世界第6位の広さになる。この排他的経済水域は、ロシア、韓国、中国、台湾と距離が近く、この水域で様々な形のトラブルが起こっていることが実感としてわかる。
領土問題は、領有権を主張する根拠となる歴史的事実(日本人が住み経済活動を営んでいる)と現在の姿ににいたった経緯、そして実効的支配の有無がポイントとなる。こういった点を著者は上陸に向けての煩雑な手続きや直面する壁を乗り越える中で説明してくれる。
国家を構成する領土・国民・主権を守るのが政府の役割であるが、日本政府は領土問題に対して主張すべきことをせずに無為に過ごしてきた、また問題解決の可能性のある時期を見過ごしてきた。この姿勢を早急に改めるべきだ。これが著者の主張である。
また、その前提として国境問題に関する情報を国民に開示してこなかったことが、この問題に国民の関心が向かわない原因であるとして、情報の積極的な開示を要求している。
領土問題は予想を超えた形で突如現れ、それが紛争の勃発につながることがある。
また、島か岩かと議論のある沖ノ鳥島の存在は、軍事的・経済的にも大きな意味があり、これが海中に沈むことによって、日本は大きな打撃を受けることになる。
この本によって、テレビ等で時折報じられる国境問題の全貌が明らかになった。報道写真家である著者は、文章という表現手段で立派な報道活動を行った。この仕事も報道写真家の領土の範囲なのだろう。