「蒼穹の昴」(浅田次郎・講談社文庫全4冊)

人気作家・浅田次郎の本は今まで読んだことがなかった。
国史関係の本にはずっと興味はあったのだが、正月の読み物として講談社文庫「蒼穹の昴」全4冊を本日読み終わった。1996年の作品を文庫化したものだ。
清朝末期の中国を描いた壮大な作品で、時代は九代文宗帝の側室であった、傑物・西太后の絶頂期にあたる。

李春雲。河北省静海県の貧農の子から宦官としての最高位にまで出世する。
梁文秀。同じく静海県の地主の次男。遊び人だが科挙を受験し、挙人、進人と進み、状元という第一等の成績をおさめ文人官僚として活躍する。最後は志敗れて日本に亡命する。
西太后。三代にわたり政(まつりごと)を行う晩清の女傑。この小説では国を閉ざすという宿命を背負った人物として描かれている。
李こう章。科挙出身の優れた漢人将軍。日清戦争時の下関講和条約の立役者。
李蓮英。高位の宦官。西太后の寵臣。
白太太。タルタンの占星術師。李春雲と梁文秀の二人の数奇な運命を予言する。

以上が主要な登場人物だが、六代高宗乾隆帝、十一代光諸帝、曹国藩、袁世凱、楊喜チェン、康有為、毛沢東などの中国史を飾る人物や、宣教師で絵師のカスチョリーネ(郎世寧)、そして伊藤博文黒岩涙香、柴五郎、などの日本人も登場する。

中国の歴史は複雑怪奇でなかなか頭に入らないが、浅田次郎が小説で描く中国史は抵抗感なく読めるのがいい。満州族の建てた清国の末期の様子が、庶民の暮らしから紫禁城での権力闘争までよく描かれている。「珍妃の井戸」「日輪の遺産」など一連の中国ものも引き続き読んでいきたい。