「脳力」と「整理法」、文芸春秋と中央公論の特集を比較すると、、

仙台への往復の間に「文芸春秋」と「中央公論」という二つの雑誌の近いテーマの特集を読み比べた。双方とも「革命」という言葉がついている。
文芸春秋5月号は「総力特集 脳力革命--脳を鍛えれば世界が変わる」で、4人の発言がインタビュー形式で載っている。
茂木健一郎「ひらめきの回路を強化しよう」
川島隆太「「前頭前野」が思考力向上の鍵」
+神山潤「国民よ、脳のためにもっと眠れ」
藤原正彦「天才を作る六つの条件とは」
茂木健一郎は読者にあわせて、「中高年の知識や経験こそ創造性の源だ」とのサブタイトルで、生まれつきの得て不得手はなく、経験が創造性を生む条件だと述べている。
川島隆太は「毎日の読み・書き・計算でボケも改善」とのサブタイトルで、読み(音読)、会話(コミュニケーション)、目的を持って指を使うことをの3つを推奨している。「脳トレ」ゲームの本当の狙いはコミュニケーションであり、「早寝・早起き・朝ごはん」には実験で根拠があることが確かめられたそうだ。
神山潤は、「ひらめきも学力も生産性も睡眠で決まる」というサブタイトルで、眠りが「ひらめき」を促すからよく寝ること、そして「禁酒・禁煙・禁宵っ張り」を提案し、筋肉運動と朝食を食べることが必要だと述べている。
藤原正彦は、「野心、知識、執着心、楽観、論理的思考、そして、、」というサブタイトルで、「そして、、」の部分は「美的感受性」でそれが一番大事だと述べている。

中央公論」5月号は「特集 知的整理法革命」で、6人の発言を紹介している。
野口悠紀雄「日本で知の産業革命は起こらない」
梅田望夫「グーグルに淘汰されない知的生産術」
外山滋比古「何歳になっても思考力は鍛えられる」
佐藤優「獄中で会得した読書ノート作成の極意」
勝間和代「あなたのパソコンを「補助脳」化する方法」
茂木健一郎「すべてを脳に任せよう」
野口悠紀雄は、グーグルの「Gmail」が革命をもたらしつつあると述べ、組織はこれを活用できないから、個人の時代が来ると期待を持っている、
梅田望夫は、情報を要約した情報の「肝」にあたる部分を非公開設定のグループウェア上のブログに蓄積している。今後は組織に属していることは重要ではなく、学習の高速道路が敷かれた今となっては知的生産に費やす時間の多さの勝負になる(唯時間論)から、個人や在野の時代になると主張している。情報を選択・抽出するためのミクロな技術と自分がなすべきことかどうかを判断する俯瞰的なマクロな技術というグーグルが担わない技術の確立が大事で、そういう人がグーグルを使いこなせるという。
外山滋比古は、知ること(知識)と考えること(思考)の違いを強調した上で、思考力を磨くには外国語の読解と本をあまり読まないことをすすめている。知識が増えるのはよくないことであり、人間としての勉強をすべきだと語っている。
佐藤優は、毎日読書とノート作成時間を6時間とっているそうえで、読書のとき重要な部分を2Bのシャープペンで囲み付箋紙をつけておく、跡で役に立ちそうな部分をノートに書き出しておく。基礎知識のメンテナンスが大切で、歴史を重要視している。「岩波講座 世界歴史」(第一期・全31冊)を繰り返し読むことが大切だという。
勝間和代は、IT機器の第一世代と自らを位置づけた上で、中高年とはネットの使い方が違うという。グーグル、特にGmailは情報の貯金箱であり、iGoogleも使い勝手がいい。パソコンは一種の「補助脳」と考えよ。良書にあたるために一月50−100冊を買って読んでいる。そして2004年春から始めたというブログを書くという武者修行を勧めている。
両方の特集に出てくる茂木健一郎は、グーグルの時代になった今、個人の整理法などは草野球に過ぎず大リーガーとは勝負できないと言う。現代ではアクセスできる情報の量と質が段違いに違ってくるため「英語」が重要になると述べる。朝から晩まで余計なことをしている暇はなく、「学べ、学べ、なお学べ」(ウラジーミル・レーニン)の言葉を最後に贈っている。

どちらの特集も面白かったが、文春が「脳力」というやや抽象的な概念に着目したのに対して、中公は「整理法」を特集したため、より具体的で実践的な内容となっている。この勝負は中央公論の判定勝ちとしておこう。