「対決 巨匠たちの日本美術」(東京国立博物館)を堪能する

17日で終わる「対決 巨匠たちの日本美術」を上野の東京国立博物館で観てきた。人気がある展覧会で、なお明日18日が最終日ということで、混んでいて会場に入るのが30分待ちだった。暑いので係員が日傘をサービスしてくれる。それで日をよけながら行列の後につくと、長いテントの中に入ることができ、一息つく。
日本美術史上のライバル、師弟、好対照の二人の傑作を並べるおとによってそれぞれの特徴を明らかにし、日本美術の奥行きを示そうという企画である。12組24人の巨匠たちの圧倒的な迫力のある作品に接することによって、日本の生んだ美術と日本自身に対して誇りが湧いてくる。
運慶と快慶---人に象(かたど)る仏の性(さが)
雪舟と雪村---画趣に秘める禅境
永徳と等伯---墨(すみ)と彩(いろ)の気韻生動
長次郎と光悦---楽碗に競う わび数寄(すき)の美
仁清と乾山---彩雅陶から書画陶へ
宗達光琳---画想無碍(むげ)・画才無尽
円空と木喰---仏縁世に満ちみつ
大雅と蕪村---詩は画の心・画は句の姿
若冲蕭白---画人・画狂・画仙・画魔
応挙と芦雪---写生の静・奇想の動
歌麿と写楽---憂き世を浮き世に化粧して
鉄斎と大観---温故知新の双巨峰

 夫れ美術は国の精華ナリ。国民の尊敬、欽慕、愛重、企望スル所ノ意象観念、渾化凝結シテ形相ヲ成シタルモノナリ。 
 故に其気骨品格ヲ観て、以て文化ノ程度ヲ判断スへく、其神韻趣味ニ由テ、以て国民の風采ヲト知スヘシ。

これは今や世界で最も古い美術雑誌となった「国華」に載った創刊行の辞である。書いたのは岡倉天心とされている。美術の本質を示した気宇壮大な宣言である。「その作者のみの造形性を顕示し得る作品が『美術作品』であり、美の価値は『個性』の純粋性と希少性によって評価される」(水尾比呂志「国華」名誉顧問)のであり、「大」や「多」を意味する「巨」を付した「巨匠」は、偉大な仕事を成し遂げた作者を指す。ここで対象にのぼった24人は日本美術史上の巨匠と名匠(その道に勝れた者)である。
一つひとつの対については書くべきことは多々あるが、ここでは省く。どの世界も同じであるが、ライバルとの関係において作者の特徴が際立ってくると改めて思った。エリートのつくったエスタブリッシュメントに挑む雑草という構図も多い。また本阿弥光悦について少し本を読みたいと感じた。謎の浮世絵師といわれる写楽は、阿波藩蜂須賀家の能役者の斎藤十郎兵衛という説が有力であることがわかった。
天才同士が引き合い、反発しあう、その対照の妙を際立たせるという今回の企画によって、それぞれの作家に対する新たな魅力が浮き彫りになった。ひとときも息の抜けない時間を堪能した。気がつくと日本美術史を旅したという感じを持った。巨匠の中で明治以降に活躍したのは私の好きな横山大観のみである。時代の中で埋没せず屹立することは容易なことではない。大観は史上の巨匠たちの仲間にすでに入っているということだろう。

豊かな気持ちになって会場を出ると、公園に多くの人がやや整然と座っている景色が目に入る。身なりや風貌を眺めていると上野公園のホームレスの一群らしいことがわかった。数にして400人ほどはいるだろうか。まわりをめぐると食事の配給を待っていることがわかった。Second Harvest JapanというNPOが毎週土曜に行っている慈善事業である。食品メーカー、輸入業者、食料品店など食料が余っているところから、児童養護施設、DVシェルター、低所得高齢者、移民労働者、母子家庭など食料を必要としている人たちに配布することを目的とする活動の一環だった。毎週土曜日に上野公園で食料を配布している。企業は食べられるが売ることはできない物を出し、廃棄費用を抑えることもできる。
先に見た博物館は文化の受益者で混み合っていたが、一歩外へ出ると多数の経済的弱者の存在に気づく。

昼食を摂った後、今度は東京都美術館で開催されている「フェルメール展」を観る。光の天才画家として人気のあるオランダのフェルメール(1632-1675年)の作品が7点展示されている。この作家は生涯において30数点しか作品を残していない。そのうちの7点の展覧だが、こちらも混んでいた。光を紡ぐ独特の画法を味わうことができた。日本美術史の巨匠展と西洋美術の天才展との対比という一日でもあった。

今日のテーマは、対照、対比、ということになるだろうか。

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新聞には首相の一日が毎日掲載されていて、誰と会っているかがわかるようになっている。政局や政策に誰が影響を与えているかがおぼろげながら感じることができるのでよく見ている。今日の新聞には寺島さんがでていた。
  朝日新聞「首相動静」15日。4時40分、寺島実郎日本総合研究所会長。6時28分、寺島氏出る。
  日本経済新聞首相官邸」15日。16時40分、寺島実郎三井物産戦略研究所所長。