「文壇ゴルフ覚え書き」(三好徹)−−少年老い易く、ゴルフ(学)、

風呂の中で本を読むことを日課としている。
ゆったりした気分でいるから、難しい理論的な本はふさわしくない。雑誌を読むことも多いが、少し軽めの本を手にして入ることも多い。直木賞受賞者の三好徹の「文壇ゴルフ覚え書き」(集英社)を読んでみた。この作家の小説は読んだことがないが、余技であるゴルフのエッセイから読むことになった。

三好が40代半ばから始めたように、小説家が主役の文壇でゴルフをやる人がゴルフを始める年齢は割と高い。ちなみに丹羽学校と呼ばれた文壇ゴルフ学校の校長の丹羽文雄は50歳から始めている。(そして81歳でエイジシューターとなった)それは文壇に確たる地位を確立す年齢が高いことに起因している。最初から小説を書いて食っている人は少なく、何らかの職業を持ちながら二足のわらじを履いている人が多く、筆一本で立てるようになたっときは年齢が高くなっているのだ。三好は新聞記者あがりである。
ちなみに文壇ゴルフの入会資格は、技術拙劣、品性高潔。石原慎太郎がそれを聞いて、「それじゃ、僕は資格がないな」」といって入らなかったそうだ。どちらの資格にひっかかったか、二通りの説がある。

座ってものを書く職業には、ゴルフは気分転換と体力維持にはもってこいだというのだが、「文は人なり、というが、ゴルフもそうなのである」と三好は言い、そのゴルフの中で人物を観察したり、友人ができたり、人生の教訓を得たりする。それを軽妙なタッチで描いていて楽しめる作品で、一回の入浴で読み切ってしまった。

三好徹は1931年生まれだから77歳。この世代が付き合ってきた世代は、球を打っている写真付きで出ている名前を挙げてみると、古山高麗雄半村良生島治郎丹羽文雄小林秀雄川口松太郎柴田錬三郎井上靖中野好夫源氏鶏太永井龍男水上勉、澤久雄、生島治郎、富島建夫、秋山庄太郎横山隆一藤子不二雄A、城山三郎佐野洋渡辺淳一五木寛之伊集院静、、、。

著者によるとマージャンは、しつこい人間が必ずいて終わりの時間が決まらないから、ゴルフの方がいいという。ゴルフは必ず夕方になれば終わる。「つきはジャン卓を囲む者たちの間を往ったり来たりするが、運が往ったり来たりすることはない」とも言っている。

日経新聞で好評連載中の瀬戸内寂聴の「奇縁まんだら」と同じ匂いがする。これは「文壇ゴルフまんだら」である。また、死んだ年齢で人間を分けていく山田風太郎の「人間臨終図鑑」にも通ずるところがある。もっというと、司馬遷の「史記」の列伝も同様のラインだろう。やはり人間を扱った作品が面白い。

澤野久雄が朱子の「偶成」をもじった漢詩をゴルフの会で披露したことが紹介されていた。

少年老い易く、ゴルフ(学)成り難し
一寸のパット(光陰)軽んずべからず

この見事な作品は、第三、第四まであるのだが、忘れてしまった著者は、転結まで戯作している。

壮年老イ易ク術成リ難シ
一寸ノ短打軽ンズ可カラズ
未ダ覚めず長打(ドラコン)一位ノ夢
舎(ハウス)前ノ芝葉己ニ秋景

さすが、である。