点的生活者、線的生活者、面的生活者から、立体的生活者へ(手帳論)

手帳ブームだそうで、私にも今年は取材が随分と多い。

日経ビジネスアソシエ」、「マネーポスト」に続き、「週刊ポスト」からも電話取材を受けた。
また、本日は「すべての手帳は1冊の手帳にまとめなさい」(蟹瀬誠一&「知的生産」」向上委員会)という本の見本が届いた。この中にも私がインタビューを受けたページが7ページほど掲載されている。来週後半に書店に並ぶが、まず私の手帳論の部分のみ以下に転載する。(最初に編集部から送られてきた原稿で、最終原稿ではない)

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*手帳とは「人生の経営資源」を管理するツール

 そもそも「手帳」という呼び方が悪いように私は思う。元をたどれば手帳とは、「手に入る帳面」という意味なのだ。形を成しているだけで中身を言っていない。
 では手帳とは何なのか。それは人、物、金、時間、情報、システム、人脈といったさまざまな「人生の経営資源」を最適に組み合わせながら、最高レベルの生活を送るためのツールであると、私は定義づけている。
 単なるスケジュール帳ではない。時間は、私たちに残された貴重な基礎資源だ。そのうえ有限でもある。人生でもっとも貴重な資源をいかに配分するか――それが手帳の大きな役割だ。また、知り合いの住所や連絡先を書き込んだものを「住所録」と考えるなら、それもまたちょっと違う。そこに記録されているのは単なる連絡簿ではなく、人脈である。
 このように「人生の経営資源」をトータルで管理できるのが、手帳なのである。


*ノウハウだけ真似しても時間管理は上達しない

 その手帳の使い方というと、重要なものの一つは?時間?をどうやったらうまく使えるかということだろう。毎年のように秋口になると各雑誌が軒並み手帳企画を組み、本書のように手帳術の書籍が多数出版される。それでも人々の興味は尽きることがない。
 それは、勉強してもなかなかものにならないからだろう。実際のところ、たとえ成功者の手帳術をそのまま真似しても、そうそう時間管理はうまくならない。
 なぜなら、成功した人や有名な人に時間術が下手な人などいないのだ。彼らは時間管理に哲学を持っているから、手帳を使いこなす技術もある。手帳術があるから時間管理ができるというより、時間術に長けているから手帳を十分活かすことができると言ったほうが正しい。
 つまり、まったく逆なのである。技術論に走って、成功者のやっていることを真似したら哲学まで手に入るかというと、そうではないのだ。
 では、時間術を磨くにはどうすればいいのだろう。言ってしまえば哲学を学ばなければならないわけだが、おそらく聞けば「なるほど」と思うだろう。しかしそれを身につけるとなると、ある条件が必要になる。それは、自分の能力以上の仕事を引き受けるということ。その覚悟がなくては、永遠にタイムマネジメントはうまくならない。
 暇な人間は時間の使い方などに頭を悩ませない。ところが忙しいすぎる状態であれば考えなければしょうがないので、知恵を絞り、工夫して、できるだけ時間を有効に使おうとする。その状況に、自分を追い込めるかどうかにかかっているのだ。

 
*今日という日を一生という大きな流れの中でとらえよう

 それからもう一つ、日日是好日――つまり毎日「今日もいい日だったな」と考えながら日々を積み重ねる生き方は人生をムダにする。わかりやすく言えば、今日の予定は何か、明日の予定は何か、一日一日のスケジュールがまとめて集まっているのが手帳がと考えている人のことだ。時間管理に悩む人はたいてい、このように近視眼的に「今日」を捉えている。
 しかし必要なのは、遠近法で考えること。
 どの一日も、あなたの長い生涯の中の一日であり、過ぎた日々、来る日々に連綿と繋がっていると考えなければならない。一生のプランがあり、さらに十年間をどう生きるか、三、四年をどう過ごすか、この一年、一カ月、一週間があって、一日があって、今を生きている。
 鳥が空から眺めるように、遠くを見渡す目で見ることが必要なのである。近くははっきり見えるが、遠くはぼんやりとしている。この?鳥の目?の感覚を手帳にも取り入れよう。
 そこで私は、四週間分のスケジュールが俯瞰できる自作のリフィルを使っている。
 直近の二週間は?鳥の目?で言えばよく見える近くの景色。スペースを大きくとり、確実な決定事項を書きこんでおく。後半の二週間は、ぼんやりとしか見えない遠くの景色と同じ。スペースを狭くし、だんだん一日が小さくすることで、遠近感を意識できる工夫がしてある。このリフィルは毎週とりかえ、常に「今週の予定」がトップにくるようにする。


*スケジュールを立体的に捉える四週間スケジュール法

「今日」という日の積み重ねで生きている人は、いわば「点」で生きている人――点的生活をしている人だ。一週間くらいで流れを区切る人は、線的生活者。一カ月をひとまとめと考える人は、線の集合である面的生活をしていると言える。
 自分を振り返ってみてほしい。無意識に人は、こうして時の流れを区切っているものだ。たとえば毎月一度、必ず給料が口座に入金される月給労働者、要はサラリーマンのことだが、彼らは月単位で生活する習慣が身についてしまっているだろう。その点、常に四週間先までぼんやりと見通しながら、「今日」が「一生」という大きな流れの中でとら」ることができるこのスケジュール帳は、それを遙かにこえた「立体的生活」へ向けてのツールなのだ。
 スケジュールが「立体的?である手帳とはどういうことか。
 たとえば私は「講演」の予定に黄色いマーカーを引く。すると、スケジュールの中からそれが浮かび上がって見える。言い換えれば、平面が立体に見えて、そこに?山?ができるのだ。その山に向けて何をどのように進めていくか、自然と意識が向かうようになる。
 そうして手帳を見るだけで、講演のような高い山があったり、大学の授業のような低い山があったりする中を、自分がずっと歩いているような感覚が持てるのである。


*スケジュールは「公私混合」が鉄則

 また、スケジュール帳は公私混合で使うのがいい。講演、授業、打ち合わせ、仕事、会議、締め切り、出版物の刊行日、人と会う約束、家族と出かける予定、ゴルフに行く予定……とにかく私は何でも書く。遊びと仕事を分ける必要はない。すべてが人生だからだ。
 ちなみにリフィルの上段はスケジュール帳だが、下段には自分が気になっている「課題」を書き留めておく。書籍の刊行時期の確認、人間ドックにいつ行くか、パソコンを買う、ゴルフのレッスンをどこでやるか等々、書いておくのだ。
 物事は忘れることを前提に考えた方が間違いがない。そして忘れてはならないことは、目の届くところに書いておくのが一番だ。そのほか同じ理由で、雑誌原稿の締め切り日や、定例会議の予定なども書いてある。
 とにもかくにも、時間管理をうまくやりたいと思うなら、まずは自分に能力以上の仕事を与えることだ。他人の技術の真似事に走るより、自分の中に哲学を見るけるほうが、タイムマネジメントを身につけるには近道なのである。

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