「わが、座右の銘」から

先日お会いした竹内洋京都大学名誉教授の「革新幻想の戦後史」の連載を読むために、「諸君!」(文芸春秋)という雑誌を手に取った。

この雑誌は「座右の銘」という特集をやっていて各界の77人の人が、座右の銘について思い思いにエッセイを書いている。いろいろな名言が披露されているが、もともとの言葉とは違った意味で自分流の解釈をして、いつも自らに念じている人も多い。また、「論語」を中心とする中国の書物が全体の中でも多く、日本人だから当然だが日本の古典からも多い。西洋からは「聖書」からの言葉が多いように感じた。この「論語」と「聖書」の二つの書物が史上を通じた人類史上の世界最大のベストセラーということに納得する。

以上がざっと眺めてみた私の全体の印象だったが、よくみると出典別に分類されている。日本近代、中国古典、自作・身近な人々、東洋、西洋と分かれているが、一番多いが日本近代と西洋だった。この企画に登場している人たちは功なった人たちが多いが、若いころから読んできた近代日本の評論や小説、そして学んだ西洋の哲学書などの影響が大きいということなのだろう。

私自身が東洋(論語など)と日本古典の言葉に惹かれているので、最初の印象になったのだろう。


さて、今生きている誰が、というより、その言葉の原文を中心に以下に抜き出してみる。

  • この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、、、。迷わず行けよ、行けばわかるさ(アントニ猪木)
  • 人が後世に残るやうな立派な仕事をする場合、神様は決して世間的な幸福や順境をその人には与えないのである(林望座右の銘
  • 美食にあらざれば食うべからず(北大路魯山人
  • 他策なかりしを信ぜんと欲す(陸奥宗光
  • 世の中にまじらぬとにはあらねどもひとり遊びぞわれはまされる(良寛
  • 而今道元
  • 為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり(上杉鷹山二宮清純
  • 一念一念と重ねて一生なり(山本常朝)
  • 結縁、尊縁、随縁(中曽根康弘の自作)
  • 生涯一書生(禅の言葉)
  • 自我作古(宋史)谷川浩司
  • 殺すな(中村元訳「ブッダの言葉」、「旧約聖書」)山折哲雄
  • 幸福だから笑うのではない、むしろ、笑うから幸福なのだと私は言いたい(アラン「幸福論」)蒲田實
  • 愚者は経験に学ぶ 賢者は歴史に学ぶ(ビスマルク)北康利
  • 困難は分割せよ(デカルト方法序説」)高橋洋一
  • 人の人たるは人と人との結合にあり(オットー・ギールケ)
  • 未来を予測する最も良い方法は、未来を創り出すことだ(アラン・ケイ
  • 向こうみずは天才であり魔法であり、力です。さあ今すぐ始めなさい(ゲーテ

また、こういう言葉を紡いだ原典についての紹介があり、手に取りたいものが多い。それも以下に記してみたい。

アラン「幸福論」(昔よく読んだ本)

それぞれのエッセイはその人の人となりが出ており興味深い。
「世の中に寝るより楽はなかりけり」(蜀山人)の真意は、寝るのが楽なのではなく、楽に生きているから寝ることができるという意味だったり、二宮清純が「為せばなる、、、」を持ち出したのは大事を成したスポーツ人は鷹山スピリッツの持ち主ばかりだったからだ。「殺すな」を挙げた山折哲雄は、命令と禁止の言葉の大事さを語っている。また、田母神航空幕僚長の部屋に「かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂」という言葉を掲げてあったことを披露しながら、座右の銘とは他の人に自分を説明するためであるとしている日下公人の指摘も面白かった。