「東京マガジンバンク」--都立多摩図書館の選択と集中の戦略

k-hisatune2009-05-23

7月に講演を頼まれている立川市の東京都立多摩図書館を訪ねる。

八王子(協力貸出センター、立川(逐次刊行物センター)、青梅(行政郷土資料センター)の多摩地区の図書館三館が統合されて、昭和62年に都立多摩図書館となった。その後、平成14年に3つの地区で文学・多摩資料・児童青少年と機能を分担してきた。
平成21年5月に、「東京マガジンバンク」を開設し、「雑誌・児童青少年・16ミリフィルム」に特化したサービスをする図書館として生まれ変わった。

この「東京マガジンバンク」は、いわば雑誌図書館で、現在一万種類の雑誌が揃っているという特色がある。評論家・故大宅壮一の集めた雑誌類がもととなった世田谷の大宅文庫の公共版といえばそのイメージがわかるだろうか。

先日お会いした新井係長と、司書の瀬島係長に案内していただいた。

企画展示は、「Change!進化し続ける世界--世界が変わる・日本が変わる・図書館が変わる」というテーマで、1.1929年「世界大恐慌」とその時代、2.1973年のオイルショックの頃、3.2001年「米百俵」の精神、4.ChangeへChallenge日本の底力、5.山本有三寄贈本(「米百俵」を書いた)、6.日本の顔という順路になっており、百年に一度という経済危機とこの図書館の特色の一つである山本有三文庫とオバマ大統領の唱えるChange、そして東京の目指すオリンピック開催の気運を盛り上げる過去のオリンピックを特集した雑誌へつなげていくという凝った展示である。

「創刊号から時代が見える」というテーマの展示では、このマガジンバンクの威力が発揮されており、総合誌、文芸誌、旅行、ライフスタイル、ファミリーなどの有名な雑誌を含む創刊号をみることができる。現代(1967年)、諸君(1969年)、正論、ダカーポ(1981年)、すばる、宝石、文藝、辺境、BRIO,百楽、日経OFFなどの創刊号が楽しめる。女性誌では、クロワッサン(1977年)など。1956年の週刊新潮創刊以後雑誌ブームとなる。環境関係の雑誌のタイトルも、公害、環境、そしてエコ(Eco do、エコソフィア、日経エコロジー)というように流れが明らかにあることがわかる。

週刊新潮は30円、モンローの自殺とR・ケネディを扱っている週刊プレイボーイ(1966年)は60円、若き石原慎太郎がおめでとうと創刊を祝っている平凡パンチ(1964年)は50円、報道・解説・評論と銘うった朝日ジャーナル(1959年)は40円、、、。こんなに安かったかなあと時代の変化を感じる。また週刊文春美智子様が表紙を飾っているなど、懐かしさにあふれた空間だ。
また、最近の創刊号200誌も飾ってあるので、こちらも興味深い。創刊号は3000誌集めており、集中が集中を呼び、今後はさらに充実していくだろう。

常設のマガジンも種類が多い。kappo、福楽、荷風会津人群像、アラブ、中国・韓国などの世界の女性誌、いきき、こころの科学などの健康・食に関する雑誌、日本史関係、文学・文芸、建築・インテリア、デザイン・広告、そしてR25などのフリーペーパーまである。全国の図書館は行政の財政危機によって存亡の危機を迎えているが、東京に限っては図書館予算は伸びているとのことだ。


土曜日なので比較的人は多いというが、ゆったりと調べ物をしたり、雑誌を読んでいる姿が多く、知的な空間である。過去の雑誌を読もうとすると、大宅壮一文庫の人名や件名索引で見当をつけたり、オンラインデータベースで国立国会図書館NDL-OPACを使って検索したりして、カウンターで注文する。すると10分くらいで量が多い場合はカートに載って雑誌や本が出てくるというしかけである。私の名前をひくと書籍は51冊、雑誌記事は12件がでてきた。

雑誌の最近3年分はバックオフィス近くに保管してあるが、地下には過去の雑誌や本の倉庫があり、みせてもらったが壮観である。太陽、ann ann、AERA、ビーパル、週刊宝石などが収められている。1万種類だが、これが1万6千種類まで増えるそうだ。

大宅文庫の検索雑誌と国会図書館のオンライン検索を使って、与謝野晶子を調べてみる。2008年の週刊新潮池内紀の評論を手にして参考になる情報をメモすることができた。「乱れ髪」は2001年。関東大震災で失った源氏物語の現代訳の原稿は4千枚、、、、。

図書館は機能分担の時代に入っている。総合図書館は大きな図書館だけで、後は住民ニーズと手持ち資源との関係を深く考えて、生き残りのために、「選択と集中」で自らの戦略を立ててまい進することが求められる。この都立多摩図書館は、雑誌を長い間、丹念に集め保管してきたという手持ち資源の特徴を生かして、時代のニーズに合った選択を行った。そしてその方向に今後の資源を集中していこうという明快な戦略をとっているのは素晴らしい。その戦略の正しさは東京マガジンバンク開設以来のマスコミの殺到と記事や番組による紹介という形で現れている。時間の経過とともに、この特色はさらに磨きがかかっていくだろう。