「日本政治の課題―組織・人材・政策」−−佐々木毅(元東大総長)

7日の多摩大リレー講座は仕事で講義を聴けなかったところ、NPO法人知的生産の技術研究会http://tiken.org/の八木哲郎会長http://plaza.rakuten.co.jp/gendaiturezure/がまとめたものを送っていただいた。要旨を掲載します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
多摩大リレー講座「佐々木毅」講演のまとめ

日本政治の課題―組織・人材・政策

1. 政治の主役としての政党の存在感。

日本の政党は官僚制優位体制を前提にした国会議員の集まりである。与党という言葉はその残滓、イデオロギーを基盤とする組織政党ができていない。政党が政府・官僚制から独立した組織として発達することがなく、それへの寄生的な性格が強かった。明治維新以来日本を築いてきたのは官僚と軍人であり、政治家の存在は希薄であった。坂の上の雲というドラマにも軍人と官僚が主役であるが、政治家は出てこない。

藩閥時代は政治家の存在感が大きかったが。

アングロサクソン社会が政治家が大いに活躍し、政治のウエイトが大きい。アメリカでは官僚などは出てこない。ドイツは軍人と官僚が強い、フランスも官僚制と軍隊が強い。

自民党は長期政権であることによって党員を増やした。その数は数百万とも呼ばれた。その多くは政府とそれに連なる利益・業界団体のメンバーが知らないうちに党員にさせられたり、義理で入ったりしていた。また個人後援会のメンバーは党員であった。

味方になる人を増やすことが政権の維持安定につながり、いろいろな要求を聞いて受け入れ、ギブ アンド テイクの関係を築き、支持母体を増やした。自民党だから支持するのではなく政権与党であるから支持するという関係になり、政権交代が起こりにくい構造ができていた。与党であるから与党でいられるという構造(自己増殖型構造)、ここから一党優位体制が出現する。(野党の存在価値はどこに)

しかし、一昨年のリーマンショック以来政府・官僚制の社会的・経済的権威が著しく失墜し、一党優位体制の仕組みは終わった。

政治は中の中に属する人が7割くらいいる国家が最も反映し安定する。しかし中産階級中心型の社会は格差の拡大によって失われている。これからは政治の主導体制への漸進的移行が21世紀の日本政府の基本的な動向である。さらに政党間競争をおこし、、選挙制度の改革やマニフェストの約束によって政党間を対決可能にし、政権交代可能な政党システムへ移行しなければならない。ボトムアップ型からトップダウン型へ(政治のリーダーシップの可視化)、

日本の政党は足腰の弱さが拡大し、支持率主導型政治への転落の可能性が増しているが、支持率さえ上げていれば政治の役割を果たしたとは言えない。少々の支持率が変動しても堪える政治が必要である。今、民主党マニフェストにこだわりすぎてそれに縛られているという人も多いし、マニフェスト違反だと怒っている人も多い。政権を担当した以上、ぐらぐらしていたら訳がわからなくなる。

政権交代は政党の組織問題の解決にただちにつながるものではない。対策と結び付いた組織化の可能性、いかに多くの人を支持者に組織するかが重要である。昔自民党は医師会、遺族会、宗教団体などを組織して支持団体にしていたが、小泉政権時代にそれらが失われてしまった。民主党はたくさんの人たちを支持者に組織することによって支持率主導型政治に対する政党の抵抗力を醸成することができる。これなしには長期的な視点に基く政策は困難である。

2 政治と人材

政治家には政党に所属して議員になるタイプもあれば知事とか首長のように直接選挙で選ばれることを求めるタイプもある。こういうタイプは権限が大きいが、個人が負担を背負いこむ。政党政治は集団で統治するので、多様な人材の有効活用を念頭においた政治のスタイルを作らねばならない。選挙に強いことは必要条件であっても、重要な役目を果たすためには十分条件ではない。党内がバラバラであっては困る。トップの指導力が強いのはイギリスで少数の幹部がすべて仕切り、あとはバックベンチャーである。人材はあまりにも同じタイプばかりだと硬直する。人材には得手不得手があって選挙に強い人、国会運営に長けた人、党内運営のうまい人、など様々な能力が必要である。

トップは政党にとっていわば最大の商品である。それが全体ににじみ出てくる。人材育成にとって素質と訓練、経験の3つが不可欠である。政権党は政権を取っている長い間に党員をいろいろな役職につかせて訓練し経験を積ませる上で人材の育成と選抜の機会に恵まれている。自民党待っている人たちを当選回数に従って大臣に登用したりして経験をつませた。しかし素質が大事で素質を欠いた人はマイナスになる。政治家はなってみないとわからないことが多い。有権者にむかってよくしゃべることが政治家の能力のように思われるが、本当に有権者に信頼されるには相手の話をよく聞くことが政治家の評価になる。3割しゃべって7割聞く。こうしてはじめて有能な政治家が育つ。小泉政権時代は民間人の起用が多かったが、これが政治家の訓練の機会を逆に奪う。民主党はこのことを考えているらしい。

組織運営と人材育成との連携について日本の政党はほとんど偶然任せ。足腰の弱さを自覚するならば議員間での組織運営と人材育成について継続的な努力がますます必要である。選挙ができることと政権を担い、統治することとの間には大きなギャップがある。政党はこれをうずめることに努力が必要である。自民党はかつて派閥に人材育成の機能を代行させていたが、派閥が消滅するにつれ、その機能が衰弱してしまい、それに変わる仕組みを実現できなかった。(統治ができるトップよりも選挙に勝てそうなトップへ)、民主党はすべてこれからであるが、膨大な数の新人議員をどう育成するか、議員の半分が若手新人である。これをどう指導し、選挙に勝てるメンバーにするかが大きな課題である。

3 政治と政策 

財政の無駄を省くとともに政策方向を転換するというのが目下の内政の課題である。「コンクリートから人間へ」「昔は良かった」「格差是正」という過去の是正も大事であるが、未来を見据えてどう未来を切り開くかが大事である。自民党は20世紀型経済・働き方だったが、それはリーマンショックで確実に終わった。21世紀型社会を目指して「しのぎ」から新たなモデル作りへ、未来志向なしには国民に負担増を求めることはできない、21世紀の経済構造、社会構造をどうするか民主党はそろそろそれをはっきり示さねばならない。今の社会は20世紀型で作られており、定年制とかいうのは若い人がたくさん供給できた時代の物である。ひとことでいえば量を拡大し、それで勝負する時代だった、軍事力しかり、経済力しかり、自民党の時代はそれだった。そういう時代は終わった。

民主党の目玉は子供手当を優先的においている。それが一丁目一番地の売り物である。

政治の歴史感覚が問われる時代、財政危機は政治の危機の象徴であり、それを乗り切るのが当面の課題である。国際環境の大変動への鋭い感覚と確かな目測能力が大事である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
午前中は、講義。
午後は、大学パンフレットの取材を受ける。マネジメントデザイン1・2とインターゼミ。
夕刻は品川で研修会社の担当者と打ち合わせ。
夜は、ビジネスマン時代の上司の中村さんと懇親。