『自己啓発の時代--「自己」の文化社会学的探究』(牧野智和)

2005年から本格的に始めた「人物記念館の旅」も、2012年3月末で469館になった。
今年は3か月間で15館だから、一月5館のペースだ。このままのペースで行くと9月末には、いよいよ500館の大台に乗る計算だ。
このライフワークも、いつも計画を立てていないと、本業が忙しくなっているとついペースが落ちてしまう。そしてしばらく行かないと立ち向かう気力が薄れてしまうのが恐い。

ということで、計画を立ててみた。以下、15館。

  • 東京のおもな記念館は行っているが、王子のゲーテ記念館は早目に訪問したい。この記念館は粉川忠という人物が途方もない努力でゲーテ関係の資料を蒐集した記念館だ。ゲーテもそうだが、阿刀田高の「ナポレオン狂」のモデルになった粉川自身の生涯にも興味がある。
  • 千葉では、野田市鈴木貫太郎記念館に行きたい。太平洋戦争末期に天皇の信頼が厚く、戦争終結時の総理大臣をつとめた人物に関心がある。
  • 神奈川では、箱根のインドのパール判事を記念したパール下中記念館。
  • 山梨県では、富士吉田の三島由紀夫記念館。山梨市の横溝正史記念館と根津嘉一郎記念館。
  • 群馬県では、北軽井沢田辺元記念館。伊香保徳富蘆花記念館。

四国もまだまだ足を踏み入れていないところが多い。

日本海側。

自己啓発の時代--「自己」の文化社会学的探究』(牧野智和)を読んだ。

自己啓発の時代: 「自己」の文化社会学的探究

自己啓発の時代: 「自己」の文化社会学的探究

ひとつのジャンルを形成している「自己啓発」という分野の本や雑誌のたどってきた日本近代の流れを追いながら、こういった『「自己啓発メディア」の世界観』を読み解こうとした労作。
1980年生まれと若い教育学者の著者は、「自己とは何か」を考えさせられるにはいられない社会を対象として丹念に分析していく。この書は著者の博士論文だが、教育学、社会学の正統な学者のアプローチで好感を持った。

第二章の「自己啓発書ベストセラーの戦後史」では、スマイルズの「西国立志編」から始まって、直近の勝間和代までの広い意味での自己啓発書の吟味とそれらの書が受け入れられた世相を分析していく。
戦後、1950年頃にピークを迎えた三木清「人生論ノート」、亀井勝一郎「人間の心得」、伊藤整「女性に関する十二章」、桑原武夫「一日一言」、、などの人生論。
「頭のよくなる本」、南博「記憶術」などのハウツーもの。
松下幸之助「道をひらく」「若さに贈る」、三鬼陽之助「決断力」、畠山芳雄「こんな幹部は辞表を書け」などの経営者論。
そして仏教書ブーム。
1970年代には、ライフワーク、ライフスタイルに注目が集まる。渡部昇一「知的生活の方法」(1976年)、井上富雄「ライフワークの見つけ方」(1978年)。
1980年代後半から90年代前半のバブル時代には、経済優先の反省から中野孝次「清貧の思想」、河合隼雄「こころの処方箋」、五木寛之「生きるヒント」。
1995年から200年代の初頭には、春山茂雄「脳内革命」、七田真「超右脳革命」、「EQ」「7つの習慣」などの具体的な処方箋のある書物が増える。
2003年以降は、「原因と結果の法則」、本田健「ユダヤ人大富豪の教え」「夢をかなえるゾウ」などの心理主義江原啓之「人はなぜ生まれいかに生きるのか」。原田真裕美「自分のまわりにいいことがいっぱい起こる本」などのスピリチュアル系。そして「仕事術」「習慣術」を扱う著作群。
2000年代後半に入って勝間和代が登場する。

こういった歴史の流れを整理してくれ、その後は、就職用自己分析、女性のライフスタイルと続く。

五章の「ビジネス誌」の分析の章は私も一人のプレイヤーでもあり興味深かった。
「○○力」のところでは、図解力も少し出てくるのだが、私自身の持っている次のテーマにも関連しており、そのアイデアに確信を持つことができた。

私は1973年に大学を出て社会に出たのだが、井上富雄のライフワーク論、渡部昇一の「知的生活の方法」など、こういった自己啓発書に啓発され、そして1980年代後半からこの分野のプレイヤーとしても活動したから、この歴史を創ってきた一人でもある。
この本のような社会学的分析は今まで読んだことがなかったので、とても参考になった。同じく教育学者の竹内洋先生の本に近い雰囲気を感じた。

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