「セコム、その経営の真髄」(長田貴仁・ダイヤモンド社)

2012年に創立50周年を迎えたセコム。売上高6791億円。事実上の1兆円企業だ。
この会社はセキュリティをコアに防災、医療、保険、地理情報、情報通信、不動産など社会が求めている事業を推進しており、自らの業態を「社会システム産業」としている。
この本は、そういうセコムの全貌を描きだそうとした苦心の作である。

セコム その経営の真髄

セコム その経営の真髄

セコムの創業者・飯田亮氏に、2002年に出版した「図で考える人は仕事ができる」(日経)と2003年に「日経ベンチャー」に持っていた連載で私もインタビューしたことがある。
飯田さんは、図を使う経営者であり、私の図解理論をよくわかってくれた。鳥瞰的視点を持った経営者だ。セコム本社の最上階のオフィスでそこから見える東京のビル群を眺め、どこでビルが立ちあがっているかがすぐにわかると、その景色を見せてくれた。
その当時「社会システム産業構想」という図を作成した。

セコムは「安全サービスをコアとしつつ、その上に医療・健康サービス、教育サービス、情報通信サービスといった社会に有益なインフラとなる各種サービスをトータルに提供する新しい産業」と1989年に宣言している。
それを飯田は、「社会システムの不備をただす産業」「人の一生をいろいろな場面で支援する企業」「高度情報社会に必要な社会システムを提供する産業」と表現していた。そして「利用者の発想でないと成りたたない仕事」であり、「顧客との接点の多さが新しい商品、新しいサービスを生み出す財産」とも語っていた。
私の当時の見立ては、安全、そして安心、そして満足というステップを踏みながら成長を続けるだろうということだった。企業のセキュリティから人間のセキュリティへ、その先にはセコムの遺伝子は地域のセキュリティや国のや安全保障まで視界に入ってくるのではないかとも予想していた。

セコムという企業は飯田亮の個性が際立っていることもあって、関係する本は必ず飯田本になってしまうという宿命にあるが、長田さんの今回の本はそういう面もあるのだが、セコムという企業に焦点を絞っているのが特徴だ。関係者にたんねんにインタビューをしながら、このつかみどころのないとことが特色でもある企業の姿をあきらかにしようと試みている。

著者は、経営学における数字だけを拠り所にする定量的分析、フレームという言葉を多用する形式的説明の風潮を嘆く。著書のいう文学性、人間性、こういった視点は、経営学者であり、ジャーナリストでもある貴重な視点だ。経営は人間が行う芸術であるから、空気を大事にしようという点は共感を覚える。

以下、飯田亮氏の発言を拾ってみた。

  • 運が良かったんだろうね。
  • 私は行為する人しか認めない。
  • 何でもやるのではなく何でもできる。あまり有形のものには手を出さないが、何だって包含してします。だから「セコム」というわけのわからない社名にした。
  • 下駄屋、味噌屋になっちゃダメだ。
  • 艶っぽい企業、色っぽい企業にならなくては。
  • 艶っぽくない組織はくすんでいる。
  • 経営理念は伝えられても、ビジネスデザインは伝えられない。これが頭の痛いところだ。
  • 人に影響されると必ず悲観的になるから、一人で考えた方がいい。
  • イエスかノーか、と自問自答した場合、イエスと判断しても、サラニノーではないかと考え直してみる。その結果、ノーと出ても、さらに問う。こういったプロセスをしつこく繰り返す。
  • アメリカで生まれたい。まずアメリカンフットボールの選手になり、次いで歌手になり、最後は事業家で締めくくりたい。(もう一度人生がやり直せるとしたら)
  • 自分で商売をやるなら現金商売か前金制。
  • 自分で仕事を開発しなくてはならない。それが一番楽しいことだし、正解だからね。
  • 叱っても尾を引かないカラッとした叱り方をしなうてはいけません。
  • 威張る人は下の下。
  • 理窟じゃなくて理念を語らなくてはいけない。、、ビジョンというのは簡単でなければならない。、、理念を浸透させるというのは、結局、そうした小さなことの繰り返しなんです。
  • 顧客の声は聞かない。社員の声は聞かない。
  • 経営とはチャレンジでありスピードだ。
  • 社会にとってセコムはなくてはならない会社だね、と言われると本望だ。
  • 物事に興味を持っていれば、健康は維持されるよ。
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