研究テーマはどんどん変えていい--山中伸弥教授にノーベル賞

「iPS細胞」の発見で京大の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した。
今日からマスコミで大騒ぎになるだろうが、たまたま読んでいた雑誌に対談が載っていたので再度読んでみた。
雑誌「致知」11月号(10月1日発行)で、小惑星探査機「はやぶさ」の指揮をとったJAXA川口淳一郎教授との対談だった。マクロの宇宙とミクロの細胞というフロンティアに挑戦している二人の対談企画は大ヒットだ。

細胞は進化していろいろな役割を持つ細胞に分化していくのだが、山中教授は細胞にある特定の遺伝子を注入することによって「初期化」しさらの状態の戻すことができることを発見した。この初期化された細胞(iPS細胞)はどのような細胞にもなれるトランプのババのような存在だ。難病の解明、治療薬の開発、臓器や組織再生の再生医療など応用範囲が広い。アルツハイマー病、パーキンソン病も回復させることも可能になるらしい。山中教授は2006年にマウスで、2007年にヒトでつくりだした。このiPS細胞の発見は、人類の未来の扉を大きく開くことになる。
例えば、失われた身体の機能をこの細胞によって元に戻すことができたり、宇宙旅行の際に乗組員が自分のiPS細胞を持っていきケガをしたらそれを使うことも考えられる。

山中教授は実用化に向けて「iPSストック」というシステムの構築に取り組んでいる。あらかじめノランティアで提供してくれたiPS細胞をつくってためておき、既存のドナー情報を活用し、医療機関と連携して進めている。他人の細胞になるので拒絶反応を起こさないような方法も考えている。まさに画期的な医療の革新が起こったとみるべきだろう。

この人の研究の軌跡をみていて意外なのは、研究テーマがどんどん変わっていることだ。
整形外科医として出発したが不器用で向かないことがわかり大学に戻り、血圧の研究をする。31歳でアメリカの留学し、動脈硬化を調べようとした。あるきっかけで今度はがンの研究をやり出す。その研究をやっているうちにES細胞に行き着き、それが今度の大発見につながっていく。
テーマをころころ変えることに日本の学界では非難があったが、利根川進先生(ノーベル賞受賞者)の講演で質問したら、「重要で、面白い研究であれば何でもいいじゃないか」と言われ、勇気をもらっている。山中教授にとっては、利根川先生も恩師の一人だろう。

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作家・宮本輝(昭和22年生れ)。「蛍川」「優駿」「骸骨ビルの庭」「水のかたち」。

  • 85歳まで小説を書きたい。後20年。
  • 35歳の時に「1年二本ずつ50年書くと生涯百篇の長編小説が書ける。純文学で世界一」と言われて、質はともかく量で世界一になろうと決心した。

この作家は、その目標をやり遂げるつもりだろう。

  • 足下に泉あり。
  • 与えられた仕事をコツコツと地道にやり続けた先に、自分にしか到達できない泉がある。
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