伊藤潔「台湾--400年の歴史と展望」(中公新書)を読了。
司馬遼太郎から好著といわれた本である。
- 作者: 伊藤潔
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1993/08/25
- メディア: 新書
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日本の台湾統治の最大の遺産は、教育であった。1944年時点の児童就学率は92,5%であり、帝国大学の設立され、化学分野のノーベル賞受賞者も出しており、医学分野の世界レベルである。
戦時下では、1944年に台湾でも徴兵制が敷かれた。戦争に従事した台湾人は20万7183名で、戦死・病死者は3万304名である。当時の台湾人口が600万人だったことを考えると大きな数字である。軍人、軍属、軍夫は、戦後には日本国籍を失ったことが理由で、補償は一切なかった。これは今尚問題として残っている。このあたりのことは、佐藤愛子「スニヨンの一生」(文春文庫)を読むことにしたい。
「蒋経国伝」を書いた江南は1984年にサンフランシスコ郊外の自宅でこの出版をめぐり殺害される。蒋経国の次男・蒋孝武の命令で国防部軍事情報局が派遣した台湾のヤクザ組織の犯行であった。
1988年に蒋経国相当が死亡し、副総統の李登輝が昇格する。蒋経国は李登輝を後継者とまでは考えていなかった。「真面目で誠実」な人柄の安全度を買われたのであるが、蒋介石の次男・蒋緯国らの登用を場阻むなど改革を行い、着々と「特」「党」「軍」「政」の実験を掌握していく。1992年の総選挙で台湾史上初の外来政権である国民党政権に正統性が与えられた。李登輝政権は1996年まで続き台湾の民主化と「台湾化」を推し進めた。
今後の台湾の生存に関わる重要問題は以下のとおり。1993年の執筆当時。
中国との関係。国際社会での孤立の打開。国民党の一党独大と党営企業の解消。国民党保守派への対応。産業動力の確保と公害問題の調和。
著者は1937年に台湾で生まれ「とう小平伝」「李登輝伝」などを書いている学者である。台湾を故郷とする人間として台湾が永遠に存在することを願い、「終章」を設けていない。そういう出自からくる思いの深さが全編にみなぎっている。