「作家の素顔編---寂聴・井上ひさし・芦花・林芙美子・森繁久彌

「読書悠々」というタイトルで同人誌「邪馬台」の連載を始めた。
過去に読んでブログで書いた書評をテーマごとに編集して原稿をつくっている。

第1回は、「中津ゆかりの人物編---前野良沢・水島てつ也・梅津美治郎野依秀市」。

第2回は、「作家の素顔編---瀬戸内寂聴井上ひさし・徳富芦花・林芙美子森繁久彌」で、もうすぐ発行となる。

以下、一部抜粋。

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日本経済新聞に毎週連載していた「奇縁まんだら」という読み物がある。瀬戸内寂聴の筆になる著名作家たちとの交友録で、意外で面白い人間的なエピソードが込められており、読むのを楽しみにしていた。この好評連載が一冊の本になった。
21人の登場人物のうち一人を除いて全員が寂聴よりも年上でそれぞれが文壇の大家たちだ。1872年生まれの島崎藤村から1923年生まれの遠藤周作までである。順番に並べてみると、島崎藤村正宗白鳥川端康成三島由紀夫谷崎潤一郎佐藤春夫舟橋聖一丹羽文雄稲垣足穂宇野千代今東光松本清張河盛好蔵荒畑寒村岡本太郎壇一雄平林たい子平野謙遠藤周作水上勉。それぞれが一家をなす歴史的人物といってもよい人たちだ。

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菊田一夫(65歳)、開高健(58歳)、城夏子(92歳)、柴田練三郎(61歳)、草野心平(85歳)、湯浅芳子(93歳)、円地文子(81歳)、久保田万太郎(73歳)木山しょう平(64歳)、江国滋(62歳)、黒岩重吾(79歳)、有吉佐和子(53歳)、武田泰淳(64歳)、高見順(58歳)、藤原義江(51歳)、福田恒存(82歳)、中上健次(46歳)、淡谷のり子(92歳)、野間宏(75歳)、フランソアーズ・サガン(69歳)、森茉莉(84歳)、萩原葉子(84歳)、永井龍男(86歳)、鈴木真砂女(96歳)、大庭みな子(76歳)、島尾敏雄(69歳)、井上光晴(66歳)、小田仁三郎68歳)

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井上ひさし(1934-2010年)と知り合い、結婚し、彼の才能を育て、劇団をつくり、そしてその過程で、最強の同志となり、また憎まれて最後に家族がバラバラになるという哀しい結末を迎えた筆者が、時効となった狂気の宿った天才との実生活の物語をすべて書いた出色の井上ひさし論である。

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徳富蘇峰と弟徳富蘆花は5才違いの兄弟であるが、蘇峰が「予は一家に於いて、恩愛の中心であるよりも、むしろ尊重の中心であり、蘆花弟は尊重の中心であるよりも、むしろ鐘愛の中心であった。」と述べているように、年齢差以上の意識の違いがあったようだ。天才と同時に問題も抱えた「難物」である弟を、兄蘇峰は冷静に、しかも愛情を持って見まもっていたように感じる。

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プロローグとエピローグは、林芙美子のめいと出版社の編集者の往復書簡である。そこには、恐ろしい事実が書かれていた。林芙美子は、結婚していたが子供が生まれないので養子を迎えている。この養子を芙美子は可愛がっていたが、芙美子が48歳で亡くなった後、数年してこの子も事故で死亡してしまう。このことは、記念館でも書いてあった。
ところが、芙美子の死後、めいが焼けと命じられた絵の後ろから原稿を発見するというところからこの物語は始まる。そこには恐ろしいことが小説風に書かれていた。戦時中、南方に従軍派遣された作家の一員として活躍した芙美子は、若い愛人を持つ。その愛人との間にできた子供を養子として縁組したという物語だった。夫である緑敏も悩んだであろうし、その後、緑敏の妻となっためいも驚き、これは小説か、真実かに苦しむ。出版すべきか、否か。

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森繁の自宅に久世が伺い、健啖家の森繁の相手を務めながら、森繁久彌という大いなる人物の回想を聞き出していう。そしてその時の様子や感じたこと、思い出したこと、そして森繁久彌という人物の陰影などが生涯の師匠と仰ぐ久世光彦の名文で記されていく。久世の慨嘆、感銘、感想、感慨などもいい。これは、晩年の生き様を描いた書でもあり、人生の書でもある。読者は、森繁久彌という国民的俳優の目を通して、歴史と人間を深く味わうことができる。

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今後の予定(案)。テーマごとに新たに読むべき本もみえてきた。