伊集院静「ノボさん 小説・正岡子規と夏目漱石」(講談社)を読了。
- 作者: 伊集院静
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/11/22
- メディア: 単行本
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わずか36年の短い生涯の中で、俳句と短歌の革新を成し遂げた偉人、ベースボールの導入者、そして人が自然に寄ってくる魅力を備えた人物、それが正岡子規だ。
その子規と同年生まれの日本小説の原型をつくった文豪・夏目漱石との肝胆相照らした友情の物語でもある。
子規という人物の魅力が細かいエピソードを通じて伝わってくる本だ。
子規という号は、結核という病を得て赤い血を吐く自分を、時鳥(ホトトギス)が血を吐くまで鳴いて自分のことを知らしめるように、自分の血を吐くがごとく何かをあらわそうと決意し、その別名をつけたものだ。
また漱石という号は、唐代の「晋書」にある「漱石沈流」に因んだものだ。石に漱(くちすす)ぎ、流れに枕す、という意味で、負け惜しみの強い変わり者を意味している。もともと、百ほどの号を持っていた子規が使っていた号だが、漱石に譲っている。
さて、この小説の中では、子規が行った俳句や短歌の革新のために勉強した方法の興味が湧いた。
- 「俳諧年表」と題して俳諧の歴史を研究した。同時に「日本人物過去帳」と題して俳人の研究をした。そして、「俳諧系統」と題して、俳人の系統を一枚の大紙面に罫線を使って系譜としてまとめる作業を行った。年表、人物、系統表はすべて連動していた。
- 分類の基本は手に入る古い句集を片っ端から読み、傾向をつかみ、そして四季に分類したり、題材別にしたりした。丁寧な作業だった。子規は分析、分類において並はずれた能力を持っていた。
- 半紙を糊でつなぎ合わせた大紙に俳書年表、俳諧師たちの人物過去帳、俳諧の系統、血統を分類した。在野の句集の一句一句までも丹念に書き写し、分析した。
この本の中に、俳句や短歌がときおり出てくる。
短いが故に読者の心に直接届いてくる。寺山修司が亡くなる前に「しまった。俳句をもっとやっておけばよかった」と叫んだことを想いだした。俳句や短歌は「残る」のである。
漱石が来て虚子が来て大三十日(おおみそか)
有る程の菊なげいれよ棺の中(漱石)
筒袖や秋の柩にしたがはず(漱石)
手向くべき線香もなくて暮の秋(漱石)
イギリスから帰国した漱石は2年後に、子規の創刊した「ホトトギス」に最初の小説「吾輩は猫である」を発表し、翌年には「坊ちゃん」、「草枕」を発表した。子規がいなければ、文豪漱石も誕生してはいなかっただろう。