「リレー講座は水野和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」

リレー講座は日大教授の水野和夫先生。テーマは「資本主義の終焉と歴史の危機--21世紀の利子革命はなにを意味するのか」。

  • 歴史の危機は今まで3度あった。
  • そして現在は4度目の歴史の危機。1970年代から始まっている。
    • 400年間続いた「近代主義」(科学と合理)は機能不全に陥った。ゼロ金利ゼロインフレ、ゼロ成長。資源ナショナリズム(誰のものか。次のシステムは何か。近代システムを超えるのはヨーロ(EU)の実験、
    • 近代システムとは、政治的には民主主義、経済的には資本主義。民主主義とは主権国家による支配、国家は平等、国内は民主主義。
    • 資本主義とは資本の自己増殖システムのことだ。成果は利潤率、利子率。1995年当たりからゼロ金利になった。3年もの国債はマイナス金利。設備投資のサイクルは10年、これが2回まわって20年経ったが失敗した。すでに資本主義は終わっている。
    • 1970年代から金融の自由化が始まった。資本主義の存続に必要なのは空間。土地を代表とする実物投資空間は限界。電子・金融空間の指標である株価は10億分の一の取引になってしまった。
    • 21世紀に入って、500年ぶりの9・11(同時テロ)、100年ぶりの9・15(リーマンショック)、1000年ぶりの3・11(東日本大震災)。テロとの戦いは成功したか? 生命の危険。信義の崩壊。かろうじて所有権の保護は残っている状態。ユーロの実験は、主権国家から閉ざされた帝国へ。
    • 資本主義は終わっている。1215年からキリスト教は利氏を公認した。国内10%、国外30%、33%が限界。イタリアによる中世の地中海のばくち主義経済。オランダ・イギリスによる地球規模のグローバリズムで空間は40万倍になった。株式会社という永遠の組織によるリスク低減で空間が拡大した。より速くより遠くという成長の進歩。無限の空間が前提の近代社会が成立した。資本主義には実質GDP2%、名目GDP4%が必要。
  • 近代は中世を否定し、古代ギリシャに帰れで成立。次なる時代はどうなるか。近代の否定だから、「よりゆっくり、より近く、より寛容に」「道州制と地域主義」「3つから4つの地域帝国」。アンチ近代、アンチ中央、アンチグローバリズム
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水野先生の名著「資本主義の終焉と歴史の危機」を一緒に読むと理解が深まる。
以下、読後の私のメモから。

資本主義が終焉する。世界を覆うゼロ金利時代(利子率2%以下)は利潤率ゼロ時代のことであり、ゼロ成長となる。それは資本主義の死を意味する。
200年間の長い16世紀の封建社会を終えて、17世紀以降の近代国民国家を支えてきた資本主義が終焉に向かい、中間層の没落によって民主主義も崩壊していく。その原因はフロンティアの消滅である。空間フロンティアの限界に突き当たった資本主義は電子空間(ITと金融の結婚。1971年から)にフロンティアを求めたが、それは延命でしかない。シェールガス革命も同様だ。日本は資本主義の最終局面に立っているから、延命のための経済政策を卒業して次のシステムへの移行に全精力を傾けるべきである。時間は迫っている。預金が増えなくなる2017年以降は金利の上昇で財政はクラッシュし、日本は壊滅する。財政の均衡を取り戻し、借り換えを続けて借金を1000兆円で固定し、国内での豊かな生活を享受していくのがいい。定常状態を実現するには人口9000万人、安いエネルギーで石油高騰の影響を避けるべきだ。
以上が著者の主張である。きわめて説得力のある、そして遠大な歴史観である。

利子率の低下は1974年から始まった。そのためアメリカは1971年からフロンティアとして「電子・金融空間」を創出し、1995年には国際資本が国境を自由に超えることができる金融帝国を完成させる。インターネットブームと住宅ブームを起こし2008年までの間に100兆ドルのマネーを創出した。それは市場を盲信する新自由主義の流であり、企業は労働者の賃金を下落させて、格差を拡大させ、中間層を没落させた。
グローバリゼーションとは、中心と周辺とからなる帝国主義的資本主義のことである。強欲と過剰の資本主義だ。この時代には貧富の二極化は国内でも現れる。

リーマンショックを経て、またバブルが巨大化し、余剰マネーは140兆ドルとなり、レバレッジを高めた数倍から数十倍のマネーが徘徊している。実物経済は74.2兆ドルしかない。その投資先はIT空間とBEICSなどの新興国(必要な資本は9.3兆ドル)であり、それは新興国の過剰設備になり日本以上のバブルを生む。そして資源価格の冒高騰を生み出す。この状態でマネーを増やせば資産価格の上昇というバブルになる。バブルの後始末は金融システムへの公的資金投入となり、ツケは結果的に国民が負う。
1945年から1973年までに実現した福祉国家は滅びつつぁり、資本は法人税率の低下や雇用の流動化によって、延命を図ろうとしている。

中国の一人当たりGDPが日米に追い付く2030年代初頭まで資源価格の上昇と新興国のインフレは収束しない。世界全体のデフレが深刻化、永続化していく。中国バブルの崩壊は甚大な影響が日本と世界に及び世界恐慌状態となる。その先には、新しい政治・経済システムが必要となる。次の覇権は、資本主義とは異なるシステムを構築した国が握るだろう。
日本は1992年の宮澤内閣以来の総需要対策で200兆円以上の外注需要を発生させたが、飽和点に達した日本では内需中心の持続的成長軌道には乗せられなかった。非正規雇用者を増やし、浮いた社会保険や福利厚生費のコストが企業の利益となった。
世界で見ると、収奪の対象はサブプライム層、ギリシャなど南欧の人々だ。