読書悠々4「日本歴代総理編――前編」(邪馬台)

邪馬台  読書悠々4「日本歴代総理編――前編」
戦後の歴代総理の回顧録や伝記を意識して読んでいる。
日本のリーダーは何を考え、何を為してきたのか。
今回は、吉田茂から佐藤栄作まで5人の総理を追う。

○北康利「吉田茂の見た夢 独立心なくして国家なし」
「あなたは国家と国民がいちばん苦しんでいる時に登場され、国民の苦悩をよく受けとめ、自由を守り平和に徹する戦後日本の進むべき方向を定め、もっとも困難な時期における指導者としての責務を立派に果たされました。、、、あなたは、なにものにもまして祖国日本を愛し、誰よりも日本人としての自負心を抱いておられました、、、」。
遅咲きで67才で総理になり、76歳まで第5次にわたって組閣し、89歳で亡くなった宰相・吉田茂(1878−1967年)の国葬の葬儀委員長を務めた佐藤栄作首相の弔辞である。
吉田茂は第一回の生存者受勲で大勲位菊花大綬章をもらった。そのとき、養父・健三の墓前で「相続した財産はすべて使い切りましたが、こうして大勲位をいただきましたのでご勘弁ください」と報告している。、、、、、、。

佐高信「孤高を恐れず--石橋湛山の志」(講談社文庫)。
石橋湛山(1884-1973年)という政治家は、総理大臣の椅子を病気によって71日という短い期間で潔く退くという見事な出処進退と、日本の進むべき道として「小日本主義」を唱えたことで知られている。
世界で活躍するためには大日本主義を棄てねばならない。「満州・台湾・朝鮮・樺太等も必要ではないという態度で出づるならば、戦争は絶対に起らない。従って我が国が他国から侵さるるということも決してない」。そして中国、東洋の弱小国全体を道徳的支持者とすることが日本にとっての大きな利益となると説いている。それが「小日本主義」である。、、、、、、。

○「岸信介の回想」(岸信介・矢次一夫・伊藤隆文芸春秋刊)。
82歳で引退の後の1981年86歳のときのインタビュー。前年は大平首相死去で自民党が勝利し鈴木善幸内閣が成立の頃である。
「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介総理大臣(1886年生れ)は、日米安保の改定を行ったことが最大の業績として残っている。5つ下の弟は佐藤栄作総理だ。
このインタビュー本は、昭和史の貴重な証言に満ちている。
岸は長州佐藤家の次男であった。祖父は幕末の吉田松陰らの志士たちと交遊があり、維新後は島根県令をつとめた、。義理の叔父は松岡洋介である。岸の長女・洋子は安部晋太郎と結婚する。その息子が安倍晋三現総理である。。
若い時代の秀才ぶり、満州での活躍、戦前の商工大臣としての活躍、戦争直後の3年に及ぶ巣鴨での戦犯としての獄中生活、保守合同と鳩山政権下の幹事長時代、政権獲得、日中・日韓問題、国論を二分した60年安保での心境、師友とライバルたちの思い出などが詰まっている。
ここでは、総理辞職以後の心境と雌伏期の獄中生活での心境の二つを追うことにしたい。、、、。

○伊藤昌哉「池田勇人 その生と死」(至誠堂)。
この本は、本来「安保からオリンピックまで 在職4年4か月」という題で池田勇人総理の回想録として出版されるという約束になっていた。
著者の伊藤の述懐では、一度も約束を破ったことのない池田総理ではあったが、ガンで退陣を余儀なくされ、1年を経たずして亡くなり、約束は守られなかったとのことだ。秘書として仕えた著書の伊藤昌哉は、ずっとつけてきた日記をもとに、この書を完成させている。
伊藤昌哉は、後には政治評論家として時折テレビで鋭い情勢分析をする人として記憶している。
伊藤は池田総理が発するすべての文章を書くようになった。
もともとは、西日本新聞政治記者だったこともあり、池田勇人の総理時代の様子があますところなく描かれている出色の本である。、、、、、、。

佐藤栄作日記第四巻(朝日新聞社)。
佐藤栄作は連続在任期間は1964年から1972年までで歴代総理中最長の7年8ヶ月という長期政権だった。私の大学時代までずっとこの総理だったし、在任当時はあまり評判のいい人ではなかったのでいい印象は持っていなかった。
この人が書いた24年間の日記40冊が6巻の書物になっているが、この中の第三次内閣を組織した1970年と1971年の二年分を読み、その印象を変えた。
69歳から70歳という年齢で総理大臣という激務の中、土日は必ずといってよいほど鎌倉の別荘で過ごし、息子の龍太郎や信二とゴルフをしている。この別荘は旧前田家の別邸で、今は鎌倉文学館になっているから一度訪れたことがある。素晴らしい庭のある建物で、三島由紀夫の「春の雪」の舞台になったところだ。精神の健康も含めて毎週のゴルフに対する執念は意外だった。バックティーで打っているが、この総理にとってもゴルフはうまくいかないのは微笑ましい。ただホールインワンも達成していた。
また日記の中には寛子夫人の動静と息子や孫たちとの食事会などの様子が短く紹介されている。この人は家族関係にも恵まれた人だったのだという思いを強くする。、、、、、、、。

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次回の「読書悠々」は、「歴代総理編(後編)」。
田中角栄中曽根康弘福田赳夫大平正芳竹下登細川護煕小泉純一郎を予定している。