堤未果「沈みゆく大国アメリカ 逃げ切れ! 日本の医療」

堤未果「沈みゆく大国アメリカ 逃げ切れ! 日本の医療」(集英社新書)を読了。

前作に続く衝撃の書だ。
医療は複雑で、広大な領域であり、全体像をつかむのが難しい。
医療に関わるどの職種も、そして患者も巨像の一部しか見えていない。
その無知という間隙をぬって、アメリカはすでに医療を巡る企業群の手に落ちて、人々は命が粗末に扱われる塗炭の苦しみの中にいる。

アメリカを構造的に食い尽くすシステムを整え終った医産複合体は、国民皆保険という世界が絶賛する医療体制を持つ日本市場を少しづつこじ開けてきた。その仕上げが、TPPである。

そういった危機感から、著者は2014年11月に出版された話題になっている前著に続き、今年5月にこの書を出した。
警世の書である。

アメリカ。

  • 65歳以上の高齢者の医療・介護の必要資金は1.5億円。物価上昇(4%)と医療保険・医療費の上昇があり大病にかかったら一巻の終わり。老人医療と介護産業は恐ろしく儲かるビジネス。政府の高齢者福祉予算の2割を吸い上げ、老人ホーム大国が誕生。オバマケアによって今後10年で高齢者医療費を57.5兆円削減し、老人ホーム費用を補助するメディケイドにまわる。中流層の消滅。
  • 有権者の無知と愚かさにつけ込む。御用学者と大手マスコミ。法案のページを府や市読みきれないように工夫する。芸能人とコメディアン、連どらですりこめ。
  • 教師、医師を悪者に。
  • 世界一高い医療費と薬代、しかし寿命は短い。
  • 保険を使わない直接支払型医療。予防医療。かかりつけ医。住民運動
  • 医師は自殺率の高い職業ランキングトップ。

日本。

  • 混合医療や医療と介護を合わせた大型チェーンは近々特区で解禁。ガン保険はアメリカ系保険会社押さえた。医療機関、介護施設、老人ホーム、透析センターで60兆円の市場規模。
  • 1922年「健康保険法」。1938年「国民健康保険法」。1942年「国保法」改正。1948年加入が義務。1958年、新「国民健康保険法」。国民皆保険体制に(実際は社会保障)。病院や診療所が整備。3割負担。1973年老人医療費無料化(田中角栄総理)。福祉国家へ向かう。高額療養費制度に世界が嫉妬。介護にも所得別に限度額がある。
  • 1958年中曽根・レーガンのMOSS協議「電気通信・医薬品医療機器・エレクトロニクス・林産物の4分野に関する製造・輸入の承認・許可・価格設定」を事前にアメリカに相談する。この不平等政策で海外の薬と医療機器を3-4倍で買わされる。
  • 1989年消費税導入。税制を自己責任型に。自己負担率が上昇中。国民皆保険制度は社会保障よりも保険に色合いが強くなってきた。保険料が増えた。長期入院が難しくなった。年金積立金の大半が株投資。混合医療・病院の株式会社化の法改正。医療特区、医療不動産の投資信託商品の登場。規制緩和の進行。国民健康保険制度は残るが使える範囲が狭くなってきた。
  • 2014年混合診療の法改正で高額新薬。日本御医薬品承認スピードは欧州と同程度。今後は安全審査は6か月が6週間に、前例のある薬は2週間審査。医療や薬の審議会には医療関係者は入っていない。韓国はすでに金融植民地になり、国民皆保険制度は有名無実化。
  • 2013年12月国家戦略特区法。外資系企業向けの規制緩和、そしてTPP締結。アメリカにあるエクソン・フロリオ条項は日本にはない。Tisa(新サービス貿易協定)は公共サービスを自由化しようという国際条約が怖い。最大のターゲットは日本の医療。アメリカはサービス産業の国外進出で経済成長しようとしている。薬価の自由化というアメリカの悲願。
  • 後期高齢者国保や健保からはずす。負担の増。要支援1・2の給付から訪問介護通所介護がはずされた。高齢者の健康予防・生活支援サービス市場は2020年までに2兆円から9兆円規模へ拡大。
  • 2025年問題。団塊世代が75歳以上に。介護職員は30万人不足。外国人介護福祉士資格取得者は永住的に働ける。事実上の移民政策。外国人技能実習制度を介護分野に拡大。介護業界の賃金水準は低下。
  • 社会掘保障と税の一体改革の先送り。議員定数、独法特別会計の数、公務員給与削減などやらなかった。消費増税のみ実施。政府広報予算の3割アップで83億円。これを大手マスコミに。

日本はまだ間に合う。

  • 自分の国の医療制度をよく知ること。そこに横たわる精神。
  • 医療費を押し上げているのは医療技術の進歩と新薬。高齢化で医療費が高騰するというのは事実ではない。
  • 日本は、医療義はかなり低い、患者の自己負担率はとても高い。
  • 日本は10兆円の巨な薬の市場で、世界の薬の4割を消費。
  • 人口あたりの医師数は先進国ではかなり低い。絶対数の不足。専門医の不足。
  • 予防医療が大切。
  • 世界が嫉妬する国民皆保険制度。
  • チーム医療。
  • 医療外交。
                                  • -

名言の暦 7月5日

命日

  • ラッフルズ826:
  • 池田弥三郎1982:
  • 福田赳夫1995:
    • 狂乱物価。昭和元禄。視界ゼロ。
    • 民の声は天の声というが、天の声にも変な声もたまにはあるな、と、こう思いますね
  • 坪井東1996:将来の経営の在り方は一番調子のいい時にこそ考慮しておくべきです。
  • 鳥井信一郎2004:

生誕

  • 会沢正志斎1782:天地の間、各各その職分ありて、閑人なきこと天道なり
  • 清瀬一郎1884
  • 大屋晋三1894:自分のやったことは、自分で責任をとる。まして自分の犯した過ちや、自分のつくった業に対しては、それに対する償いや責めは自分で果たさなければならぬ