森嶋通夫「なぜ日本は没落するか」(岩波新書)

森嶋通夫「なぜ日本は没落するか」(岩波書店)を読了。

なぜ日本は没落するか (岩波現代文庫)

なぜ日本は没落するか (岩波現代文庫)

この本は一度読み終わったのだが、旅行中に無くしてしまったので、再度購入し再読。
おかげでこの重要な名著を二度読むという幸運を授かった。

21世紀が目前の1999年に刊行されたものである。
その時点で約50年後の2050年の日本を予測した書だ。
著者の森嶋通夫は1923年生れで、1976年に53歳で文化勲章を受章していることからわかるように出色の経済学者だった。
ロンドンにいる森嶋が1977年に出した「イギリスと日本--その教育と経済」という著書は話題になった。私もロンドン駐在中の1978年頃に接触したことがあることを思いだした。

結論は、政治的に没落し、国際政治的には無視しうるは端役になっているであろう。経済的には不況は7−10年に一度来てそれらを切り抜けることができることを望む。中心テーマである政治的没落の罠から逃れるには政治的イノベーションであるアジア共同体の形成以外に道はない。

森嶋は社会は一つの構造物であり、土台と上部構造があるとマルクスと同じ考え方をする。マルクスは土台を経済としたが、森嶋は土台を人間だとする。経済は人間という土台の上に建てられた上部構造に過ぎないとする。
だから2050年に政界・財界・官界のトップに就くであろう現在の若い人(3歳、13歳、18歳)がどのような人間になっているかを推定すればいいと言う。この視点から言うと、2015年現在の時点で官界の2050年のトップは18歳、財界は28歳、政界は33歳である。
彼らがどのような人間であり、教育によってどのように変化するかを考慮に入れれば土台がどのようなものになっているかがわかる。
人口史観である。人口の量と質が決まれば、それを使ってどのような経済を営めるかを考えることができる。重要なのは経済学ではなく、教育学である。

戦後の教育改革は中途半端であった。学校では自由主義個人主義を教えられたが、大人の社会は戦前の教育を受けた人たちが中心で動いていた。彼らはその流れに抵抗してきた。学校を出た青年は大人社会の入り口で戸惑い、失望した。私が入った企業も新入社員教育自衛隊だったし、最近までそれが続いていた。また、家庭教育は戦前教育を受けた親からは儒教道徳を指導されたので、この初期の青年層は保守的な面を持つ二刀流であった。80年代末期の青年はこの二刀流を使えなかったので、大人は彼らを新人類と呼んだ。
高度成長に貢献した大部分は戦前教育を受けた人たちだった。
1990年代初めには官界は戦後教育派、財界は過渡期派、政界は戦前はと背景のまったく違う人が三界を占めていた。

2050年の土台はどうなっているか。
戦後教育は価値判断を避けて知識を詰め込んだ。結果として価値判断を行う能力を失い、意志決定力も弱くなった。日本は頂点から崩れていく可能性が高い。

教育への提言。

  • 森嶋は大学進学率は15%でよいと考える。残りの25%は専門部に進学させ、そのうち5%を大学院修士課程に入学させる。結果として大学進学率は20%になる。
  • 専門コースを先にやり、その後で教養課程を履修させる。大部分の学生は2年で卒業。
  • 校舎はガラガラになるから、入学試験は全廃し、高校時代の実績を重んじる。

東北アジア共同体の提言。これができないと日本は没落する。政治的イノベーション

  • 中国を6ブロック、朝鮮半島と日本はそれぞれ2ブロックづつ、首都は独立した琉球(沖縄)。
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