福岡伸一「芸術と科学のあいだ」(木楽舎)

福岡伸一「芸術と科学のあいだ」(木楽舎)を読了。

芸術と科学のあいだ

芸術と科学のあいだ

「生物と無生物のあいだ」で境界のあいまいさを描いて、生命の本質に迫り話題をさらった福岡ハカセの新刊本。
日経新聞の連載コラムを書籍化したもの。連載中に読んではいたが、一冊にまとまって読むのも楽しい。

この本には人の科学者と芸術家の名前が数多く出てくる。偉大な人々と現代の最先端を走る人たちだ。
彼らの名前や訪問した美術館などをあげることで、内容を語ることに代えてみよう。

ミノルヤマサキ(ワールドトレードセンター設計者)
フランク・ロイド・ライトグッゲンハイム美術館
宮永愛子
イサム・ノグチ
ケント・フラー(「写真集「コーネル」)
クロイスターズ美術館(「ユニコーン狩り」)
モルガン・ラーブラリー
ダ・ヴィンチ
亀井南瞑(金印「漢委奴国王」)
レーウェンフック(「顕微鏡」)
フェルメール国立西洋美術館の「聖オウラクセディズ」)
美術史美術館(ウイーン)
サルバドール・ダリ
池田学(「予兆」)
パスツール
F・クリック(DNA構造)
ピーテル・ブリューゲル(「バベルの塔
細野仁美(羽根の葉の器)
北斎
丹下健三(国連大学
加納夏雄(円銀貨)
黒川紀章中銀カプセルタワー
隈研吾(プロソミュージアム・リサーチセンター)
河原温(日付)
カズオイシグロ(「忘れられた巨人」)
高山辰雄(牡丹 洛陽の朝)
多田富雄(免疫)
鈴木理策(SAKURA)
杉本博司(アラスカオオカミ)
伊藤若冲
ジャクソン・ポロック(アクション・ペインティング)
千住博(滝)
アンリ・ファーブル
アルブレヒト・デューラー8メランコリー)
エリアス・ガルシア・マルティネス(会が修復)
東山魁夷(年暮る)
J・ワトソン(細胞の分子生物学
ピエト・モンドリアン(勝利のブギウギ)

「生命」について。

  • 科学とは、自然や宇宙について私たちが古くから何となく感得していたことを、より解像度の高い言葉で再発見する試みである。
  • 生物にとって中央はあとから、発生的に作りだされた。
  • 変わらないために、変わる。これが生命の本質である。
  • 生命を構成する要素は単独で存在しているのではない。それを取り囲む要素との関係性の中で初めて存在しうる。状況が存在を規定する。自分の中に自分はいない。自分の外で自分が決まる。相補性である。
  • マクロを形作るミクロな世界の中に、マクロな世界と同じ構築原理が、無限の入れ子構造として内包されている。
  • パワーズ・オブ・テン
  • 私たちは常に動き、流れており、身体はそこに浮かぶうたかたにすぎない。私たちは粒の容れ物ですらない。生きるとは流れそのものである。

「名言との対話」1月25日。小林一三
「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしてはおかぬ。」

    • 大阪急を一代で築いた小林一三と筆者は同じ日に生まれているから親しみを感じている。小林の場合は、1月3日生まれという単純な理由で一三という名前がついた。1月25日は命日。
    • 阪急池田市にあるのは逸翁という茶人としての活動を示す逸翁美術館と、雅俗山荘と名付けて住んでいた自宅を使った小林一三記念館である。小林は三井銀行で15年働き、退社した後に電鉄経営にまい進する。この美術館や記念館に掲げてある小林が遺した言葉には組織で働く人たちにとって膝を打つような言葉が多数ある。このような上司を持っていたらどんなに幸せだろう、と思わせるような言葉群である。「サラリーマンとして成功したければ、まずサラリーマン根性を捨てることだ」「金がないから何もできなという人間は、金があっても何もできない人間である」。まさに言葉は人格の発露である。
    • どんな仕事を与えられてもくさることなく、その小さな分野の第一人者になることから始めよ、という意味のこの言葉には成功への叡智が込められていると共感する人は多いだろう。阪急電鉄の社員は電車の中で座席に座ることをゆるされなかったし、どのような係りにいても「係りが違うからわかならい」ということは通用しなかった。質問魔でもあった小林一三は教育者的資質に富んだ率先垂範型の名経営者だった。人材はたくさんいるわけではないから、どんな人間にもどしどし仕事をさせて、優れた人物に育て上げていくという小林の教育哲学の真髄がこの言葉にはある。