上橋菜穂子「鹿の王」(上巻・下巻)

上橋菜穂子「鹿の王」(上巻・下巻)を読了。

本屋大賞を受賞した100万部を超えるベストセラーだ。
本屋大賞は全国の書店員が「いちばん売りたい」と思った本である。
読者側に立った目線なので、はずれはないので、本屋大賞第一位の作品は必ず読むようにしている。

さて、この「鹿の王」は、医学、薬学、人類学、社会学をバックにした異世界を巡る壮大なファンタジーエンターテイメントである。
ミクロコスモスである人間の体の内で何が起こっているか、その謎解きをしながら、人の命と国家の将来を暗示する大きな物語だ。

著者は「あとがき」で啓示を受けた2冊の本をあげている。

  • 「創造する破壊者」−−−ウイルスが身体を変化させる共生体としてふるまうことがある。
  • 「われわれはなぜ死ぬのか−−死の生命科学」(柳沢桂子)−−−生物進化論。不死の生物の存在と、性の分化が死を生み出す。

人の身体は、細菌やウイルスらが、日々共生したり葛藤したりしている場である。
雑多な小さな命が寄り集まり、それぞれの命を生きながら、いつしか渾然一体となって、ひとつの大きな命をつないでいるだけなのだ。
それは社会そのものである。そういう発想からこの物語は生まれた。

「鹿の王」とは、我が身を賭して、群れを守る鹿のことだ。
鹿の王という生き方は、「他者を生かすことで、自分も生きる。他者を幸せにすることで、自分も幸せになる」ということである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「名言との対話」6月20日。徳川吉宗

  • 「困った時にうつ向く者は役に立たぬ。困った時あお向く者が役に立つ」
    • 徳川中興の名主。越前国葛野藩主、紀州藩主を経て、第8代将軍。幕府権力の再興に務め、増税と質素倹約による幕政改革、新田開発など公共政策、公事方御定書の制定、市民の意見を取り入れるための目安箱の設置などの享保の改革を実行した。破綻しかけていた財政の復興などをしたことから中興の祖と呼ばれ、江戸時代を代表する名君の一人。享年68歳。
    • 「すべての人に上にたつ時は、愚なるも智あるさまに見え、下にいる者は、智あるものも愚にみゆるものなり。 」
    • 吉宗は「堅い人」という意味での堅人であった。保守主義を通し、やや衰書けた幕府の運命を持ち直した人である。
    • 困った時に、困る人は困った人だ。窮地に立ったとき、上を向き、前を見る人こそ、師とし、友とし、部下ととすべきである。