白井聡「戦後政治を終わらせる」

白井聡「戦後政治を終わらせる」(NHK出版新書)を読了。

安部首相は「戦後レジームの死守」を強行。
本書は「戦後レジームからの脱却」を目指す。

序章:55年体制の崩壊の後継体制が出てこない。その一因は55年体制の本質の理解が不十分であったからだ。

  • 戦争や経済崩壊というハードランディングではなく、自らの手で改革を成し遂げ社会と政治を変化させるソフトランディングによって戦後レジーム(永続敗戦レジーム)を実現すべきだ。55年体制とは東西冷戦構造の日本版だ。

第1章:55年体制の本質と崩壊後の新体制の失敗の連続。戦後レジームの根幹は、敗戦と冷戦によってもたらされた特殊な対米従属だ。

第2章:日本の対米従属の特殊性は「自国が発展するための手段として他国に従属する」のではなく、」「従属するために従属する」ような自己目的化した異様な従属状態となったか。国内問題としての対米従属。

  • 永続敗戦レジームの主役たちは「対米従属を通じた対米自立」をやろうとした。GHQのGD(民政局−−民主主義改革)とG2(参謀二部−−冷戦構造野中で日本を利用)の逆転。
  • 占領期から60年安保闘争を「確立の時代」。90年の冷戦終焉までは「安定の時代」。990年代以降は「自己目的化の時代」。
  • 二重の法体系がるということは、日本国民には主権がないことを意味する。改憲・護憲にまえにそこが問われなければならない。
  • アメリカの二面性は「暴力としてのアメリカ(占領軍)」と「文化としてのアメリカ(ソフトパワー)」。本土は文化が主役になり、暴力は沖縄に移った。

第3章:自己目的化した従属である「経済的従属」と「軍事的従属」の展開をみて、日米安保条約の本質を明らかにする。日米関係における対米従属。

  • 日本はレーガンソ連との軍拡競争を米国債をドル建てで大量購入によって支えた。その後、円高・ドル安でアメリカの借金は大幅に圧縮された、これが「マネー敗戦」だ。
  • 日本経済の停滞は超長期的な意味での資本主義の行き詰まりであった。
  • アメリカの経済的苦境の一因は対日貿易赤字だった。日本市場の閉鎖性が理由とされ、構造改革協議、金融ビッグバン、金融資本の移動の自由化などグローバル資本に有利な状況を作り出そうとした。政治権力と経済権力が一体となってこれを後押ししている。
  • 米軍は日本を守るために駐留しているという常識を吟味すべき。アメリカの「タダ乗り論」と日本の「番犬論」。日米安保のアメリカ参戦義務は緩い。自動参戦はしない。議会に諮ることが必要、グレーゾーンだ。在日米軍はアメリカの世界戦略の便利な手段だ。「世界の警察官」の活動を支える。そして危険な日本を押さえるための「瓶の蓋」だ。
  • 新安保法制は、対テロ戦争の主要プレーヤーに日本がなるということ。手続き論と本質論。「価値外交」で中国という共通の敵をつくるりそれを後押しするのが本質。対中脅威論が軍事衝突になったとき、アメリカは参戦しないだろう。そのとき在日米軍は日本を守るためのものという日米安保の虚構性が露呈する。だからアメリカは戦争に結びつくことを避けたい。在日米軍は「永続敗戦レジーム」を守っている、具体的には対米従属利権共同体を守っている。

第4章:新自由主義という世界的文脈が日本に与える影響を分析。右傾化、反知性主義、排外主義などの危機的現は近代資本制社会の世界的な行き詰まりに関係。

  • 新自由主義は修正資本主義を否定する潮流だ。資本にとっての障害を力ずくで破壊し、資本が自由に活動できる空間を拓く。民営化、資本移動の自由、福祉削減。労組など再分配削減に反対する勢力をつぶす。「包摂から排除へ」。国民統合の破壊を隠すために排外主義をあおる。ナショナリズムの安酒。国民がバカになってもらう、反知性主義の空気の万苑。排外主義で、自己愛に耽溺する、インンスタントナショナリズムの大衆。資本は国家に寄生し国家の政策を左右。大衆には「底辺の競争」を押しつける。

終章:ポスト55年体制構築のための根本原則を指摘。

  • 民主党政権の失敗の本質は「覚悟」の不足だった。
  • 第二自民党ではなく、新自由主義を打倒する勢力として結集が必要。「オール沖縄」が示唆を与えてくれる。沖縄は日本の縮図。政治的には最先端。沖縄は「永続敗戦レジーム」の外部にいる。
    • TPPも永続敗戦レジームを維持するもの。日本を収奪対象に。健康保険問題。100兆円市場。
    • ポスト55年体制の政治は、「国家は国民に優越する」という原理の勢力を一掃するものでなければならない。
    • 近代的原理(基本的人権国民主権・男女平等、、)という戦後憲法の精神を徹底すべきだ。
  • 「アメリカの核の傘の下の日本」という前提を取り払った国際関係の構築。
  • 奴隷根性から脱却する精神革命を。


「名言との対話」8月11日。アンドリュー・カーネギー

  • 「職業はなんでもいい、ただ第一人者たるを心がけよ」
    • アンドリュー・カーネギー(1835年11月25日-1919年8月11日)は、「鋼鉄王」と称されたアメリカの実業家(出身はスコットランド)。「カーネギー財団」の設立者。
    • 「一番確実な方法は、エネルギーのすべてを、特定の分野に注ぎこむやり方だ。」
    • 「小さく砕いて、一つずつ解決すれば、解決できない問題はない。」
    • 「年をとるにつれて、人が言うことには以前ほど注意を払わなくなった。人の行動をただじっと見ることにしている。」
    • 「金持ちのままで死ぬのは不名誉な死である。」
    • 「自分より賢き者を近づける術知りたる者、ここに眠る。」
    • 職業選択、入社する企業の選択、こういったものは考えれば考えるほど難しくなる。人生の決断を重大に扱わずに、もっと軽く考えることも必要だ。すべてを知って選ぶということはあり得ない。だから縁のあった職業に就いてみる。そしてそこで第一人者になる努力をする。それが職業人生を充実させることになる。カーネギーのこの言葉は、それを端的に示してくれる名言である。