キッシンジャー「WORLD ORDER(国際秩序)」

ヘンリー・キッシンジャー「WORLD ORDER(国際秩序)」(日本経済新聞出版社)を読了。世界をまるごと見つめる目を感じる、92歳のキッシンジャーの遺言的著作。以下、その要旨。

国際秩序

国際秩序

グローバルな世界秩序は存在したことはない。オランダがスペインから独立し、ドイツとチェコを主戦場とした世界規模の30年戦争終結のために、1648年にェストファリア(ドイツ)で結ばれた和平条約が今の世界秩序だ。国家の主権という概念が確立。外交の枠組みの設計。国際法により調和を育む。秩序をともに模索。手続きのみ定めた。
この条約の考え方から、欧州内の釣り合いをとることに腐心したため、200年以上にわたり戦争を抑制できた。

  • 二度の大戦の結果、ヨーロッパにおける主権の概念と力の均衡の原理は後退した。冷戦期はソ連とアメリカの核戦力の均衡とNATO内部の均衡の上に立っていた。EUの誕生は地域全体の力としてウェストファリア条約の世界版において一個の集合体の役割を果たしている。
  • ロシアはウェストファリア条約による国際秩序に対する脅威だった。強いときには傲慢に、弱いときには弱みを押し隠す。
  • 中東。サウジアラビア。イラン。シーア派スンニー派の1000年にわたる闘争。
  • アジア。第二次大戦後、アジアはウェストファリア条約の水準になった。
  • 日本。神の子孫の思想。独特な国民。形だけ取り入れて日本の様式に変える。秩序の頂点に天皇がいる。人間と神との仲介者。秀吉の明征服構想。徳川は引きこもり。明治維新で日清、日露戦争に勝利しウェストファリア原理に則り列強のひとつになった。その後、大東亜共栄圏という旗印で反ウェストファリア影響圏を構築しようとし、敗戦。新平和主義の姿勢をとり、不屈の精神で急激な回復を遂げ、経済大国になった。日本の今後は、日米同盟、中国の勃興に適応、国家主義的外交という3つの選択になる。指導層の判断応力が結果を左右する。
  • 中国。ウェストファリアの発想からもっともかけはなれていたが、現在では古代文明の継承者として、またウェストファリアモデルに則った大国として、両方の姿で復帰してきた。現代の世界秩序とどう関わっていくのか。毛沢東トウ小平江沢民胡錦濤、そして第五世代の習近平。アジアに覇権が生まれるのを防ぐのがアメリカの政策。そのためには力の均衡とパートナーシップを組み合わせることが必要だ。
  • アメリカでは理想主義と現実主義がぶつかり合っている。アメリカと世界のために行動できなかったときには、どちらも果たせなくなるかもしれない。
  • 核時代にはどちらの陣営も大大量破壊兵器を使用しないような均衡が戦略的な安定となった。そしてインターネットは戦略やドクトリンを凌駕してしまった。多国間のルールをつくらないと危機が発生する。書物から得られる概念的思考が不足すると、指導者にふさわしい思考を衰えるおそれがある。知恵と洞察を身につけるには歴史と地理を深く理解し、当面の問題に集中しなければならない。
  • ウェストファリアのルールは公布されているが、法執行の力がないので、効果は十分に発揮されていない。国際秩序は正当性の定義の見直しか。力の均衡の大きな変動に直面する。21世紀の世界秩序の構造には重大な欠陥が3つある。国家は外から中からの挑戦を受けている。政治・経済機構は対立している。調整のための有効な仕組みがない。したがって国際システムの再建が現代の最大の難問だ。今の常状態に即したウェストファリアシステムの現代化が必要だ。

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「黄昏(たそがれ)」(On Golden pond)をDVDで観る。
キャサリン・ヘベバーン。ヘンリー・フォンダジェーン・フォンダ。という実力派名優の秀作。
「金色に輝く湖面が頑な心をとかす、ひと夏の山荘で綴られる、人生の一ページ」
高齢者の生き方を考えさせる、美しい物語。
https://www.amazon.co.jp/%E9%BB%84%E6%98%8F-DVD-%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%80/dp/B006QJS8WG
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拙著が紹介された。
http://fum2.jp/10582/
あなたは自分の会社の企業理念をちゃんと覚えてますか?

「みなさん、自分の会社の企業理念って覚えてますか?
就職活動では「御社の企業理念に感銘を受け……」とアピールしたものの、業務に忙殺されて忘れかけていませんか?
でも、企業理念こそ、その企業が何を目指して日々活動しているかを端的に表すもの。
『40文字でわかる! 今さら聞けないあの企業のビジネス戦略35』(久恒啓一、多摩大・図解アルチザン・著/ブックビヨンド・刊)から、優良企業のスローガンを見てみましょう。」

社員の幸せは社会の幸せ
「いい会社をつくりましょう」なんだかほわんとした社是です。経営理念も「社員の幸せを通して社会に貢献すること」。何となく内向きです。でも、この企業は、創業から48期連続増収増益、国内シェアは8割、世界でも15%を誇る超優良企業。その企業とは伊那食品工業。寒天のトップメーカーです。重視しているのは社員の幸せと会社の永続。これを実現するためにあえて持続的な低成長を志向しているのです。なんとなく社員に甘い印象を持ちますが、社員は会社に報いるため、一人で何役もの仕事をこなしお互いをカバーし合っています。そのため余計な人材を抱えることなく生産性は極めて高くなるのです。そして利益を文化事業などで還元することで地域社会の信頼を得ています。まさに「社員の幸せを通して社会に貢献する」を体現しています。
徹底的な合理主義で生涯給与6億円!

2015年の売上高は3340億円、営業利益率はなんと52.6%。そんな超高収益をあげているのは株式会社キーエンス。センサーを中心とした産業用エレクトロニクスメーカーです。キーエンスの企業理念は「最小の資本で最大の付加化価値をあげること」。工場を持たない「ファブレス経営」で合理化をはかり、顧客がまだ気づいていない潜在ニーズを発掘する「コンサルティング営業」により、新商品の約7割が世界初か業界初という最大の付加価値をつけているのです。
しかも、2014年の生涯給与ランキング(東洋経済調べ)では、大企業を抑えてトップの6億円! 社員の平均年齢は35歳、平均年収が1400万という好待遇! 知る人ぞ知る超優良企業なのです。
めざせ、農業のディズニーランド

サイボクハムは、「食こそ人間の根本である」という理念のもと1946年に牧場経営に乗り出し、以降、種豚と肉豚の生産を行う牧場、自社牧場産の原料を使ったハム・ソーセージの加工、販売部門、パン工房、レストランまでを所有しすべての部門を自社でこなす「完全一貫経営」が特徴の企業です。
この理念のもと、現在は「ライフトピア構想」として「美・感・創・遊の景観・情緒も加味したオアシスの創造」を目指しています。埼玉県日高市の本社は「農業のディズニーランド」を標榜し、レストランやゴルフ場、天然温泉を併設しており、県外からの来場者は年間380万人にもなります。ちなみに、これは2015年の読売巨人軍の主催試合の年間来場者数より多いのです。

ここまで見てきたように、どの企業も理念に基づいた経営を行うことでしっかりとした業績をあげています。
一見、当たり前のことのように思えますが、得てして理想と現実は異なるもの。
あなたの会社は理念通りの経営ができていますか?
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「名言との対話」9月22日。岡崎嘉平太

  • 「信はたて糸 愛はよこ糸 織り成せ人の世を美しく」
    • 岡崎嘉平太1886年-1989年)は、日銀を経て、大東亜省参事官、上海在勤日本大使館参事官。戦後、池谷鉄工、丸善石油全日空の社長を歴任。日中覚書貿易事務所代表。81歳、勲一等瑞宝章。92歳、戦後100回目の訪中、没。
    • 1972年の日中国交回復時には周恩来首相から、水を飲むときには井戸を掘った人を忘れないと言う諺が中国にはあるが、岡崎先生と松本先生(松本重治)はその1人ですと感謝された。65歳の時にはLT貿易を調印した。中国という国は奥が深く何度も訪れている。92歳のときに実に100回目の訪中を行った。
    • 「これからの外交の行き方は、隣国とともに生きるということにあると思う」「アヘン戦争以来、中国が苦しんだもろもろの何代を、孫文、黄興、蒋介石と三代を経て共産党政権がこれを一挙に解決した」「8月15日に蒋介石がだした布告文「仇に報いるに徳をもってせよ」。憎い日本ではあるけれども、アジアの守り神であっったといえるよ」「気宇が大きい、、」「だれも中共に行き、あるいは人と交わって身をもって研究している様子がない」「実に遠大な計画です。それがいちばんよくわかるのが植林、治水です。黄河ひとつみましても、五千年来の念願だった治水をついやってしまった。」「周恩来。わが国は大変な損害を受けている。しかし、八十年は、日中二千年の交わりに比べれば僅かな時間だ。」
    • 「あと30年たったら、世界における今の中国というののは、えらいものになる。おそらく、ソ連は追い越し、アメリカにも追いつくだろう。、、そういうときが来たときに、もし、日本民族と中国民族との間に、不信感があったとしたら、息苦しいのは日本じゃなかろうかと思います。」
    • 「基地については、外国の軍隊が今後二十年、三十年、五十年にわたって日本に駐留し、日本が実際の自己防衛を行わないという状態がつづけば、日本民族はおそらく骨抜きになるだろうと私は心配する。そこで、日本民族が生きるバックボーンをもつために、基地は漸次、できるだけ早く撤去しなければならない」
    • 日米安保条約だけに固執せず、より広い視野からアジアの安全を考える必要があると思う。また、日本の安全は日本人自らが守るのだという気概をつくりあげてゆくことが必要なのではないだろうか」
    • 日中関係の井戸を掘った人は多い。孫文を助けた日本人は忘れられているが、この岡崎も現代中国との関係の井戸を掘った人物だ。掲げたいくつもの言葉の底には、長期にわたった日中関係を見据えた慧眼がある。信頼と愛情で美しい織物を織りたいものである。