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安田峰俊「野心 郭台銘伝」シャープ買収の現代のチンギス・ハン

安田峰俊「野心 郭台銘伝」(プレジデント社)を読了。

野心 郭台銘伝

野心 郭台銘伝

多摩大の非常勤をやっていただいている安田先生の10月3日発行の力作。

オビ

  • 「独裁、リストラ、嘘、、、中国との蜜月、強烈な身内愛、すべての謎を解き明かす渾身のドキュメント。シャープの救世主か、破壊者か」
  • 「シャープを買収した台湾企業・ホンファイの創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)とは何者か」とある。

「現代のチンギス・ハン」「きょう雄(残忍で荒々しい人物)」「失言王」と語られる経営者の実像に迫った書である。

ホンファイ(鴻海)は創業以来の名称だが、中国を初めとする国際市場向けにはフォックスコン(富士康)で名が通っている。
2016年のデータでは、フォーチュンのグローバルランキング世界25位。従業員は106万人。この企業のビジネスモデルは、-大手メーカーの電子製品の製造過程を請け負う受託生産である。自前のブランドを持たずに他社からの発注を受け、自社工場において他社ブランドの製品を代わりに生産するビジネスだ。

多摩大で9月に訪問した本社機能を持つシンセンの龍華工場は、「郭台銘の紫禁城」とも呼ばれている。2.3万ヘーベの敷地内に数十万人が働いている大工場だ。特に中国では、30カ所以上製品工場が広がっている。私たちが見ることを許されたのは、ヒューレットパッカードの自動化されたインク生産工場だった。
取引先は超一流企業だ。アップル、ソニー・エリクソン、、任天堂ノキア、デル、など、、。実はこういった企業は、最先端のモノの仕組みを考える製品企画を担当するが、実際に具体的な形にする方法は台湾のホンファイが策定し、中国のフォオクスコン工場で大量生産するという構造になっている。この下流工程を握ったホンファイが力をつけてきた。この日影者、そして潜水艦のような企業がホンファイである。

話題になった日本の有力メーカー・シャープの買収劇は、製造段階の下請け企業がいつの間にか力をつけ、付加価値の源泉である最上流の先進国の大手メーカーを買収し、ブランドを手にしようとする物語なのである。

ホンファイとそのトップ・郭台銘は、シャープとの駆け引きで、恐るべき企業体として我々の目に映ったが、著者は、記者会見の場で直接、疑問をぶつけるなど、その交渉の過程も丹念に追っている。一方的にシャープが振り回されたのではなく、疑心暗鬼なのは、どちらも同じである。しかし、ともかくもシャープはホンファイの中に入った。シンセンでの見学時に、副社長からシャープは中国の拠点をこのシンセンに移してきますよと言われたことを思い出した。
シャープととホンファイの違いは何ですか、と私が聞いたところ、その答えは「スピード」であった。
大阪に、シャープの創業者・早川徳次記念館を建設するという提案も買収条件に入っているとこの本に書かれている。

さて、郭台銘とはいかなる人物か。
1950年生まれ。フォーブスの世界長者番付で205位で保有資産は6850億円。数年に一度以上のペースで「身の丈に合わない」ように見える投資を躊躇なく行い、決定した途端に恐るべきスピードで実行に移すという経営スタイルで、のし上がってきた人物だ。

公的な顔、私生活の顔を調べた結果、郭台銘には、大経営者が持つ美しい理想や哲学はないと著者は断定している。世界を変えようという志はみえない。
では、郭は何のために一日16時間も働いているのか。
それは「野心」だ。世界中を飛び回り、この世の一切を腹に飲み込む。ホンファイという社名は「大きな雁は千里を飛び、海はすべての川を収める」から来ている。すべてを呑み込むという意味がある。ただ、世界を呑み込もうと動き回っている怪物企業という見立てである。

ホンファイについての情報はあまりなく、日本には馴染みの薄い企業なのだが、著者の熱意と努力も相当なものだ。10年前にフォックスコンに部品を納入するメーカーで短い新入社員時代を過ごしたと「おわりに」に書いている。その経験が基底となって、ホンファイへの鋭い観察が散りばめられた本書が誕生したというわけである。この本を書く理由があったことが納得できる。

本書は、シャープという日本的企業の将来を占っている。それに留まらず、日本企業と大中華圏(中国・台湾・ホンコン・シンガポール)との関係を考えるに際して大きな示唆を与えるであろう。力作である。

「名言との対話」10月10日。中村元

  • 「常識を常に疑っているんです。みんながそうだと言っていることは、本当にそうだろうかと、その奥を考えたくなる。」
    • 中村 元(1912年(大正元年)11月28日 - 1999年(平成11年)10月10日)は、インド哲学者、仏教学者。東京大学名誉教授、日本学士院会員。勲一等瑞宝章文化勲章紫綬褒章受章。在家出身。主たる専門領域であるインド哲学仏教思想にとどまらず、西洋哲学にも幅広い知識をもち思想における東洋と西洋の超克(あるいは融合)を目指していた。外国語訳された著書も多数ある。
    • 「世界が一つになるには、理解と寛容が絶対必要である」
    • 「人生において遅いとか早いとかということはぞざいません。思いついた時、気がついた時、その時が常にスタートですよ。」
    • 常識、定説、多数説、こういったものにだまされてはならない。問題解決にあたっては、こういうものは邪魔になるだけだ。目が曇るといってもよい。根本からそれを疑ってみよう。表面的な観察と安易な理解、そういうものが横行していることを数多くみてきた。本当にそうか。深掘りを厭わない人に栄光が待っている。