「近世畸人伝」--江戸的感性における生き方のモデル

「続近世畸人伝」(中公クラシックス)を読了。

続近世畸人伝 (中公クラシックス)  作者: 三熊花顛,伴蒿蹊,中野三敏

校注の中野三敏によれば、江戸の壮年期である享保の改革から寛政の改革までの85年間を視野に入れた18世紀の実在の人物を一種の香気に包んで提示してくれる絶妙の書である。

畸人」とは誰か。「荘子」の中で子貢の「敢えて畸人を問う」に対して孔子は「畸人は人に畸にして天にひとし」と答える。俗人からみれば奇人・変人だが自然の法からみれば理想的な人間をいうのだ。歩むべき道を歩む人は汚れきった俗世間では一種の畸人になる。この書は超俗・世俗の両面にかかわる書物である。

人選は生存中の人物は省いている。「なべて人の一生は棺をおほふて後定むべければ也」だからだ。

孔子の人物評は、「中行の士」(中庸を得た聖人)「狂者」(志は高いが行いが中庸を欠く人)「狷者」(立派ではあるが他に厳しすぎる人)「郷原」(上辺の体裁ばかりを作る人)の順。

畸人伝は、中江藤樹貝原益軒から始まる。僧侶、女、尼、遊女、各地の畸人を紹介している。女が多いのは意外だった。

貞烈の婦人。孝心の人。父のために身を売る娘。売茶翁。隠士。直き人。蓄財せぬ人。俳諧行脚者。医者。速修を受けざる人。妬心なき婦人。陰徳者。無我の道人。仙人。、、、など89人。こういう人が畸人なのだ。

「ももとせも猶あきたらず行末をおもふこころぞ物笑ひなる」

 「女ほどめでたきものは又もなし釈迦や達磨をひょいと産」

畸人は奇人ではない。江戸的な感性の中であるべき人間の姿をであった。高僧・偉人に始まりやがて狂者、畸人まで紹介したこの書は刊行時から明治以降も関連書が出ており長く世間の評価が高かった。人々が自分の境遇に引きつけて模範にすべき、モデルの提示だったのである。

 

さて、連休中。

  •  「青春記」の校正終了。「名言との対話」の修正と加筆がとりあえず終了。
  • プールで初泳ぎ、今日は偵察なので200m。日曜日か月曜日に泳ぐことにしよう。
  • T-Studioでの「名言との対話」シリーズの収録の方針。大学設立者、経営者、科学者、宗教者、教育者、漫画家、芸術家、小説家、映画監督、政治家、アスリート、アメリカ人、中国人、、、。こういった人物をヨコを軸に一人づつ紹介していく。まず、安藤百福本多静六公文公伊丹十三

 

「名言との対話」。リチャード・ニクソン「自分が大統領を狙わず、大統領職に自分を狙わせる。これこそ大統領になる最大のコツではないだろうか」

リチャード・ミルハウス・ニクソンRichard Milhous Nixon, 1913年1月9日 - 1994年4月22日)は、アメリカ合衆国政治家。第37代アメリカ合衆国大統領ニクソン大統領は、ベトナム戦争からの完全撤退、冷戦下のソ連とのデタント(緊張緩和)、中国との国交樹立などに尽力した。

ニクソンの著書「指導者とは」 (文春学藝ライブラリー)は20世紀リーダー論の最高峰だ。この中に同時代の世界のリーダーたちが出てくる。政治家になって35年間でニクソンは世界80カ国を旅し、指導者たちと会っている。戦後の大指導者たちの中で会っていないのはスターリンくらいだった。多くの指導者を観察したニクソンは「人間が老けるのは、みずからが老けるのを許容する場合が多い」という。戦う英国を率いたチャーチルは66歳だった。ドゴールは67歳で第五共和制をつくった。アデナウアーは73歳で首相になった。そしてドゴールは78歳でも大統領であり、チャーチルは80歳でも首相、アデナウアーは87歳でも首相だった。

ポリティシャン(政治屋)が多く、ステイツマン(政治家)がいない。これがよく聞く慨嘆であるが、ニクソンは「ステイツマンになろうと志す者は、まずポリティシャンでなければならない」と言っている。政治屋が政治家になっていく。順序があるのだ。

指導者にとって、もっとも大切なのは時間である、とも言う。つまらぬことに時間を割くことはできない。自分でやることを決めることと部下を選ぶことが大切な仕事になる。また私情を殺し公益を優先しなければ成果はでない。超重要事項は自分でやり、重要事項は部下にやらせる我慢が必要になる。リーダーにとって時間こそ最大の資源なのだ。

ニクソンは「文章を書くのにテープに口述筆記をするのが一番だ。重要な演説の原稿をまとめるのが自己を鍛える。決断の検証と思考を磨くことになるからだ。」とも語っている。考えをまとめるときに、考えがまとまる。

1960年の大統領選では、選挙人の多い州を重点に回る選挙戦略をとったライバルのケネディに敗れたニクソンは、臥薪嘗胆の日々を送り、大統領職が自分をターゲットにするまでに自分を鍛えていった。1968年の大統領選で当選し第37代の大統領に当選する。ポストにふさわしい実力をつけることが、ポストにつくための戦略ということになるだろうか。