アインシュタインとフロイト『人はなぜ戦争をするのか』(講談社学術文庫)

アインシュタインフロイト『人はなぜ戦争をするのか』(講談社学術文庫)を読了。

2016年6月10日発行。

ひとはなぜ戦争をするのか (講談社学術文庫)

 1932年の二人のユダヤ人の天才二人の書簡と解説。物理学のアインシュタイン53才、心理学のフロイト76才。そして解説は養老孟司斉藤環

1932年7月30日。ポツダムアインシュタイン

「人間を戦争というくびきから解き放つこちはできるのか?」

・なぜ少数の人たちがおびただしい数の国民を動かし、彼らを自分たちの欲望の道具にすることができるのか?

・国民の多くが学校やマスコミの手で煽り立てられ、自分の身を犠牲にしりく---このようなことがどうして起こり得るのだろうか?

・人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのか?

 1932年9月。ウイーン。フロイト

「法や権利に支えられた共同体を持続的なものにしなければならないのです。いくつもの組織を創設し、社会を有機的なものにする。、、、この人間集団を一つにつなぎとめるのは、メンバーのあいだに生まれる感情の絆、一体感なのです。」

・皆が一致協力して強大な中央主権的な権力を作り上げ、何かの利害対立が起きたときにはこの権力に裁定を委ねるべきなのです。、、、二つの条件が満たされていなければなりません。現実にそのような機関が創設されること、、、自らの裁定を押し通すのに必要な力を持つこと、、、

・人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうもない。、、戦争とは別のはけ口を見つけてやればよいのです。、、その(破壊活動)反対の欲動、つまりエロスを呼び覚ませばよいことになります。、、二つの種類があります。、、一つは愛するものへの絆のようなものです。、、もう一つの感情の絆は、一体感や帰属意識によって生み出されます。

・優れた指導層をつくるための努力をこれまで以上に重ねていかねばならないのです。自分で考え、威嚇にもひるまず、真実を求めて格闘する人間、自立できない人間を導く人間、そうした人たちを教育するために、多大な努力を払わねばなりません。

・私たち(平和主義者)はなぜ戦争に強い憤りを覚えるのか?、、心と体が反対せざるを得ないからです。、、、心理学的な側面から眺めた場合、文化が生み出すもっとも顕著な現象は二つです。一つは知性を強めること。力が増した知性は欲動をコントロールしはじめます。二つ目は、攻撃本能を内に向けること。

・すべての人間が平和主義者になるまで、あとどれくらいの時間がかかるのでしょうか・、、文化の発展が生み出した心のあり方と、将来の戦争がもたらすとてつもない惨禍への不安---この二つのものが近い将来、戦争をなくす方向に人間を動かしていくと期待できるのではないでしょうか。、、文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!

 養老孟司

・個人でいえば意識と身体、集団でいえばアルゴリズム的な社会と自然発生的な社会、その両者のバランスの上に将来の社会システムが構築されていく。戦争の地位も、その中で定まるというのが私の予想である。、、いずれ飼い殺されるに違いない。

 斉藤環

・現代におけるネットは、いわばエロス的な回路として平和に貢献するところが大きいと私には思えるのです。

・嘆く必要はありません。私たちは世界史レベルで見ても最高度に文化的な平和憲法を戴いているからです。そこにはフロイトすら思いもよらなかった戦争解決の手段、すなわち「戦争放棄」の文言が燦然と輝いています。この美しい憲法において先取りされた文化レベルにゆっくりと追いついていくことが、これからも私たちの課題でありつづけるでしょう。

 

「名言との対話」7月16日。クーデンホーフ・カレルギー光子「私が死んだら日本の国旗に包んでちょうだい」

クーデンホーフ=カレルギー光子Mitsuko Coudenhove-Kalergi, 1874年7月16日 - 1941年8月27日)、旧名:青山 みつ(あおやま みつ)は、オーストリア=ハンガリー帝国の貴族ハインリヒ・クーデンホーフ=カレルギー伯爵の妻で、パン・ヨーロッパ運動によりEUの礎を築いたリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー伯爵の母。

美術評論家で戦後の日本の文壇のパトロンであった青山二郎の母親と従姉妹でもあった青山みつは、18才でオーストラリア・ハンガリー帝国の貴族で外交官に見初められて妻となった。正式な国際結婚第1号である。現在の青山通りの由来となった父・青山喜八からは勘当されている。帰国時の宮廷参賀皇后陛下から「どんな場合にも日本人の誇りを忘れないように」と励まされている。

18ヶ国語を理解し、哲学に関しては学者並みの知識を持ち井上円了とも親しかったインテリの夫と、尋常小学校を卒業した程度の学力しかない妻とでは教養のレベルの差があった光子は子どもからの質問に答えられるようにと、歴史・地理・数学・語学(フランス語・ドイツ語)・礼儀作法などを家庭教師を付けて猛勉強した。そして長身で美人の光子はハイソサエティ社交界でその優美と作法によって成功し有名になった。「香水の中の香水」と言われる「ミツコ」の由来にもなっている。

東京生まれの次男のリヒャルト・クーエデンホーフ・カレルギー(青山栄治郎)は、欧州統合を主張した汎ヨーロッパ連合の主宰者で、欧州連合の父の一人である。そのため光子は「パン・ヨーロッパの母」と言われ、現代においては「EUの母」と言われる。リヒャルトは日本人の美徳である「名誉・義務・美しさ」が母の生涯を決めたと語っている。映画「国境のない伝記--クーデンホーフ家の人々」では吉永小百合が光子を演じている。

晩年には「年老ひて 髪は真白くなりつれど 今なほ思ふ なつかしのふるさと」と詠んでいる。生涯一度も帰国することのなかった光子は、日本人としての誇りをいつも携えていて、遺骸を日の丸に包んで欲しいといつも語っていたそうだ。今日のEUの母が日本人女性であることを誇りにしたい。