退任記念講義の映像

多摩大学久恒啓一副学長 退任記念講義。平成31年1月17日

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 書斎と離れの片づけ。

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 エドガー・ミッチェル『月面上の思索』を読了。アポロ14号宇宙飛行士の化学と宗教をめぐる思索の旅。1971年、月に降り立ち、月から地球を眺めるという特異な体験した彼は、帰還後、科学と宗教への思索を深めていく。 

月面上の思索

月面上の思索

 

 

 「名言との対話」2月11日。小高賢「僕は講談社の中で岩波書店をやっているんだ」

小高 賢(こだか けん、1944年7月13日 - 2014年2月11日)は、日本編集者歌人。本名・鷲尾賢也。兄の鷲尾悦也は第3代日本労働組合総連合会会長。

慶應義塾大学卒。講談社入社して編集者を務める。1987年馬場あき子らと共に歌誌『かりん』を創刊。2001年、歌集『本所両国』若山牧水賞を受賞。他に歌集『長夜集』など、評論『近藤芳美』『宮柊二とその時代』『老いの歌』など。

歌人が俳句でもやろうか、と気楽に始めた句会の様子が克明に、そして楽しく記されている素人句会の入門書『句会で遊ぼう』(幻冬舎新書)を読んだ。ユーモアあふれる筆致で句会の始まりと進化がよくわかる。醸句会の宗匠であるこの小高という人にはビジネスマン時代に上司(柴生田俊一)の紹介で会ったことがあるので、親しみも感じながら読んだ。
いいかげんに始めて、深入りして句集までだして、さらに進化するだろうことを予感させる。そして楽しみながら俳句の世界の基本知識がわかる。高齢者同士のヨコのコミュニケーション活動としての句会のすすめである。確かにこういう句会という座のツールがないと、世相と若者を慨嘆し、政治を肴に怪気炎をあげざるを得なくなるだろう。いいポイントを突いている。高齢社会を生きるノウハウ本でもある。

「結社は日本の短詩文学を発展させてきた独特の組織である」「個人の営為というより、一緒になって刺激し合って新しい世界を創造する、独特の文学形式である」「句会はそういった仲間とのコミュニケーションの場なのである」。時事問題をテーマにグループで図解に取り組み、発表し、質疑応答する場では、一つの新しい世界をチームで創造しているという感覚を味わうことができる。句会を「図会」と読み替えるとアイデアがふつふつと湧いてくる。句会と図会をやってみようか。

小高は俳人ではなく、歌人であった。以下、心に残った歌をあげる。

 いつか超ゆる壁とおもいき幅ひろき父の背中を洗いしときは 

 湯豆腐を好みたる亡き父勲七等陸軍伍長のごとき一生

 的大き兄のミットに投げこみし健康印の軟球ボールはいずこ

 夕暮れがアジアのはてに降りそそぎ妻を娶らぬ賢治思ほゆ

 本当の孤りは母を喪いて絆解かれてのちにくるらん

 鴎外の口ひげにみる不機嫌な明治の家長はわれらにとおき

 家族論――その父の座に漱石もわれもすわりぬ日日不機嫌に

 〈英雄でわれらなきゆえ〉朝ごとのひげそりあとの痛き「エロイカ

 この「その」は何を指すのか受験期の娘にたださるるわれの時評は

  ぎこちなくネクタイを締め出ずる子のわれのなくしたる朝の緊張

 三百六十五の昼と夜ありつらき夜の数ふやしつつ年齢ひとつ積む

 いますこし視線を下げん漱石の享年越えてすでに一年 

 中里介山死せる戦中十九年生をうけたりわれは本所に  

 どうしても詩人になれぬ生卵割りて九月の食卓に座す

 生涯をおえる順番まつごとし呼ばれるまでの病院の椅子

 川を見て一日(いちにち)一日おくるこの一日(ひとひ)一日幾千かさね一生となる

 「略歴を百字以内に」かきあげるこの文字数のごときわれかな

小津映画のような一行記憶せり「視点はひくく視線はたかく」

明日は雪の予報にこころはずみたる夜をみつめるガラスの彼方】(辞世の歌)

わが言葉待ち迎えいる狡猾な顔あり憎む午後の会議に

にんげんの噂寄りつく耳という世に張り出せるふたつの港

居直りをきみは厭えど組織では居直る覚悟なければ負ける

わが手足規矩に余ればもぐべしと裁かれたりし夕べの会議

二度三度会議席上売れざるを判決とする販売部長

同僚を見る眼のなきとみずからをつくづく笑うほかなし今日は

数字に頼る企業ではなく理想などたたかわせたき照れくさくとも

辞めること前提なれば抵抗のかたちとしてのながき沈黙

小高賢は、本名の鷲尾賢也としては名編集者でもあった。丸山真男に私淑する戦後の近代主義者であったこの人は講談社の社風に染まぬところがあった。冒頭に掲げた言葉はその情念がほとばしる言葉である。挑戦と抵抗の日々であっただろうということがひしひしと伝わってくる職場詠だ。小高賢は家族詠もいいが、組織人として長く過ごしてきた私は、この人の職場詠に深く共感する。

句会で遊ぼう (幻冬舎新書)

句会で遊ぼう (幻冬舎新書)