『梅棹忠夫著作集』第11巻「知の技術」を読了。下斗米先生「プーチン・ロシアと日ロの関係」。

梅棹忠夫著作集』第11巻「知の技術」を読了。

 「知的生産の技術」。『知的生産の技術』の前後。「知的生産の展開」。「フィールドでの知の技術」。以上、4部。知的作業一般に適用できる「汎用」の技術を取り上げた巻である。情報時代に突入した現代にいおいては、知的生産者や知的生活者は社会の各層に拡大しているから、知的作業に関する技術の習得と訓練が必要になった。希代のフィールドワーカーであった梅棹忠夫の知の技術の粋がおさめられている。改めて系統的に読んで、新たな発見や納得に満ちた読書となった。

この巻にも他の巻と同様に「月報」が挟み込んである。4人書いている。紀田順一郎の「知的生産ということば」、羽賀日出男「梅棹先生との29年間」、八木哲郎「私の運命を変えた一冊」、山根一真「怖いフレーズ」である。八木さんの文章は、NPO法人知的生産の技術研究会の誕生の経緯がよくわかる。「研究会をやめて研究所にしなさい」といわれ、いまだにエスタブリッシュできずにいて、長大な剣に怯えていると書いている。それは梅棹先生から与えられた宿題だ。

梅棹忠夫著作集11 知の技術
 

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本日のリレー講座は、下斗米先生(神奈川大学特別招聘教授)の「プーチン・ロシアと日ロの関係」。

  • ベルリンの壁が崩壊した以降30年間で米ロ関係は今が一番悪い。来週6月28日に米ロ会談が予定されている。アメリカが仕掛けたベネズエラのクーデター失敗とクリミヤの寮だ拡大の取引などが話題になるかもしれない。
  • プーチンロシア:内政は安定。保守主義、伝統主義。ロシア正教にもとずく政治体制。エネルギー大国。クリミアで人気上昇したが、ゼロ成長、年金支給の繰り下げなどで人気が下降気味。経済は世界10-11位。世銀のビジネスのしやすさランキングは31位。日本は2009年12位から39位に転落。国際的孤立が恐い。ウクライナとの関係も悪化。外交ではユーラシアを意識した「脱欧入亜」。アジアと北極海を意識。クリミヤ半島は地政学と地経学の交差点。一帯一路の3本目の「氷の道」。
  • 日ロ平和条約を締結できるか?23回の首脳会談。1956年の日ソ共同宣言にもとずく交渉。1月から本格交渉しているが、米ロ関係が悪く動けない。戦争を終わらせるという意味で連合国との交渉の最終章である。本道に戻る。平和条約締結から領土解決はいつか。

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昼休み:総研ミーティング

知研の高橋副理事長来訪:松江、北海道の知研イベントの打ち合わせ。

夕刻:ジムでストレッチ、ウオーキング30分、筋トレ、バス。

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「名言との対話」5月23日。廬武鉉(ノムヒョン)「私は韓国を変える」

盧 武鉉ノ・ムヒョン朝鮮語: 노무현1946年9月1日〈旧暦8月6日〉- 2009年5月23日)は、韓国政治家、第16代大統領。

裁判官、国会議員、政党幹部として10余年政治活動を行い、大臣として行政を担った。立法、司法、行政の3権をすべて経験している。2012年12月19日大統領選挙では朴槿恵に惜敗し、5年後の2017年に大統領に就任し雪辱を果たす。

2003年3月20日刊行の『私は韓国を変える』(朝日新聞社)を読み終えた。廬武鉉は2月25日に韓国第16代大統領に就任しているから、大統領としてのマニフェストの役割も持った書でもある。2000年8月から就任した海洋水産大臣時代を中心としたリーダーシップに関する考えと、大統領としての抱負が高らかに宣言されている。

信頼形成のために大事なことは業務に精通することが最優先だ。たくさん読み、多くの人と会い、部下にたえず質問することを心掛けた。大きな枠組みだけを示し、手続き上の問題は参謀に任せた。成功例が大事だ。傍観者シンドロームに陥った官僚。人事が万事で公正に対する信頼が重要。大臣は管理者でなくリーダーだ。リーダーは「なぜ」(Why)を問う人間だ。管理者は「どのように」(How)を問う。現場を大切にする。問題と解決策もあるからだ。以上のようなリーダーシップ論を読むと、共感することばかりだ。吉田茂首相は「歴史を知らない国民は亡ぶ」と言ったが、廬武鉉は「ビジョンがない民族は亡ぶ」と語っているのが印象的だ。だから、この書では半島経営のビジョンを高らかに宣言している。

 韓国の歴史と文化は、大陸勢力と海洋勢力の衝突・融合である。韓国は中国、ロシア、日本などの「鯨」に苦しめられてきた。東方のスイスがモデルに分裂と対立を克服する「和解と協力の時代」を切り開く。東北アジアのビジネス中心地にするという戦略。金大中、廬武鉉、文在寅と続く、韓国民主化運動では、土台をつくった金大中政権と廬武鉉政権時代を担った若い人材が現在の政権の中枢にいる。悲願である南北の平和を実現できる展望を持つことができる時代だ。「和解と協力」政策をとった金大中大統領を引き継いだ「平和と共同繁栄」が対北政策だ。「韓半島経済圏」が実現したら、7000万人の市場をもつ国家が誕生する。中国と日本の軍備競争、南北分裂が重なれば、韓国は東北アジアの片隅で細々と生きていくしかない。南北平和なら中国と日本の軍備競争を防げる。北が譲歩したら米日韓らが対北支援を強化する一括妥結方式。韓半島平和宣言、平和協定。半島の軍縮。新マーシャルプラン。東北アジア開発銀行。統一はゆっくりと進めなければならない。南北共同の家づくり。、、、、。

 しかし、実際の政権運営はいばらの道だった。廬武鉉自身は反米志向が強かったのだが現実路線を歩む。2003年に米国のイラク戦争を支持し韓国軍の派遣した。2007年には米韓FTA交渉を妥結した。支持者からは「左(革新)のウインカーを点滅させながら右折(右傾化)した」と批判され、多くが離れた。自身の思いとは裏腹に社会の経済格差は拡大し国民は閉塞感を強めた。世論調査会社の韓国ギャラップによると、政権発足時に60%だった支持率は2006年末には12%まで下落し、保守からも革新からも見放され、2007年の大統領選では後継の革新系候補が大敗ししてしまう。

 退任後に収賄などの疑惑を持たれ、廬武鉉は2009年に飛び降り自殺する。その2カ月前に「政治、するな得られものに比べ失わなければならない事のほうがはるかに大きいから。」、「大統領になろうとしたことは間違いだった」と韓国大統領になったことを後悔する文章を残している。最近、評価が高まっている。2017年4月の韓国の世論調査で48.7%の圧倒的な支持を得て、歴代大統領の中で好感度1位に選ばれている。

韓国の大統領の手記として、私は金大中(キムデジュン)、朴槿恵(パククネ)の自伝を読んでいる。「この世で一番恐ろしいのは自分の眼である。鏡の中に現れる自分の眼こそが一番恐ろしい」といった金大中、「絶望は私を鍛え、希望は私を動かす」といった朴槿恵、そして「私は韓国を変える」と宣言した廬武鉉、彼らの立派な志と末路との落差に、半島という地理的条件の難しさと悲哀を改めて感じる。金大中、廬武鉉政権の後継たる現在の文在寅政権は平和統一に命を懸ける人々によって運営されているというが、志を遂げることができるだろうか。 

私は韓国を変える

私は韓国を変える