出版プロジェクト進行中。

・市ヶ谷のN出版社:企画の打ち合わせ。年内に出したい。

荻窪の地研:「全集」の8月の新聞広告は大きく。第1巻の配本スケジュールの確認。第2巻の本の選択、文字の大きさなどの最初の打ち合わせ。

17時半の京王線新宿駅の乗り場。「後ろ姿探検隊」。

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・ZOOM会議:「仕事を創る」。

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「名言との対話」8月3日。時実利彦「人間の喜びは快楽の追求ではなくて、創造の喜びの体得にある」

時実 利彦(ときざね としひこ、1909年9月4日 - 1973年8月3日)は、日本の生理学者。

岡山一中、旧制六高、東大医学部卒業。東大医学部脳研究所所長、京大霊長類研究所教授。

脳の生理学を専門に研究する講座を開いた開拓者である。この人名前にはよく遭遇する。育児の神様・内藤寿七郎(1906年生)は、脳科学の東大教授時実利彦先生と一緒に勉強会まで開いて理論的基盤も追求している新日鉄武田豊社長(1914年生)は、時実利彦博士に、大脳生理学を長く学んだことをビジネスで生かしている。

時実利彦『脳を育てる』(三笠書房)をじっくりと読んで、脳の知識を整理して頭に叩き込んでおこう。

大脳皮質は3層構造になっている。脳幹は身体の活動を司るいのちの座。古い皮質は本能と情動の座で食欲・性欲・集団欲を司る本能と快・不快・怒り・恐れなど情動の心の座だ。新しい皮質は知・情・意の座で、後ろの方は視角、聴覚、皮膚感覚などで情報を取り入れる役割、前の方(前頭葉)は、創造を司る意志決定をする役割で、思考し、意図し、実行しようとする働きを持つ。

3歳までは後頭葉と前頂葉が発達するから知識を注ぎ込むのがいい。父母の行動が手本になる。模倣の時代だ。5歳から10歳になると意欲を司る前頭葉が発達するから意欲を伸ばすのが正しい教育である。5-6歳からは自主性、主体性がでてくるからそれを伸ばす。創造の時代だ。10歳前後からは意欲と訓練が絡み合うようなアドバイスが大事である。錬成の時代である。そして脳細胞は125歳まで働く。

人間の尊厳は、新しい皮質で古い皮質をコントロールすることにある。制御がいきすぎると古い皮質がゆがみ健康をそこなうこともあるから、抑圧から解放することも大事だ。それは、酒、歌、踊り、勝負ごとによるうさばらしでできる。古い皮質の解放である。まさに酒は「こころのうさのすてどころ」なのだ。それだけに頼らずに、人間だけができる高い喜び、つまり創造の喜びで、次元の高いうさばらしで健康をつくりだすことが人間の尊厳といえる。

教育の目的は前頭葉の複雑、緻密にからみあわせ、意欲、創造の精神を育てることだ。勉強の喜び、研究の喜び、仕事の喜びを体得させることだ。人間を人間たらしめている前頭葉を鍛え上げることだ。それが人間形成である。

人間のもっとも重要な能力は考える能力である。その能力を発揮させるのは意欲である。学校教育には思考力の訓練が欠けている。自分でも脳を毎日鍛えよう。

多くのビジネス書などに時実博士の名前や理論が出てくるのは、文章が平易でわかりやすいからだろう。この本の中にある脳の構造の図も非常にわかりやすく参考になった。快楽ではなく歓喜、それは創造の喜びだ。この歓喜を述べている人を探してみよう。

辻邦生「生命とは歓喜であり、文学はそれを自覚させる手段である」。

小田規矩之助「人は誰だって快楽を求める。しかし君、男子たるもの歓喜を求めにゃいかんよ」

中村天風「常に心に感謝と歓喜を持って事に当たれば、宇宙のエネルギーが流入する」

ベートーベン「悩みを突き抜けて歓喜に到れ!」

白鳥省吾「風の自由  大地の健康  星の永遠  大地のかくしゃく  それら一切のごとく  形体の束縛を脱して  恒久の苦悶に堪え  歓喜の大道を歩まむ」

サムエル・ウルマン「60歳であろうと16歳であろうと人の胸には、驚異に魅かれる心、おさな児のような未知への探求心、人生の興味への歓喜がある」

以上の人間として高次の喜び、歓喜についてのさまざまの考察は、時実利彦の大脳生理学の示すところだ。

時実利彦記念神経科学優秀博士研究賞がある。神経科学・ 脳科学分野の更なる発展に寄与することが期待される大学院博士課程学生に与えられる賞だ。この賞を受けた俊秀たちが、「脳の時代」を先導しているのだろう。開拓者の栄光はここにある。