リレー講座は寺島実郎「2021年の展望」

2020年度最後のリレー講座は、寺島実郎「2021年の展望」でした。今回も重要な分析と新しい視座がふんだんに盛りこまれた刺激的な講座でした。

 コロナの1年:専門知のパラドックス。42万人死亡の予測。しかし実際は3575人にとどまった。呼吸器系疾患の2019年の死亡者3505人と並んだ数字。別の専門知も必要。これには科学ジャーナリズムの衰退も原因の一つだ。2000年に一般紙は4700万部あったが、2020年には3245万部と1500万部の減少となった。朝日新聞は赤字になり1000人規模のリストラ。SNSでは知りたい情報しか触れない。本当の情報にアクセスする努力が必要だ。2020年5月に「ウイルスとの共生」と語った。マスク2枚と10万円の日本。重症者の受け入れ体制を調べると首都圏で631床が現在924床と1.5倍しか用意してこなかった。3-4倍にしてスタンバイすべきだった。5月25日の緊急事態宣言後のGOTOキャンも中間業者がもうかる仕組みになってしまった。

東京MXテレビ「世界を知る力」。地上波、エムキャス以外に、ユーチューブでも11万件のアクセス(海外も)。来週は「中国」がテーマ。ロンドンエコノミストの2021年の予測は「Its not all doom and gloom」(悪いことばかりじゃないよ)だ。2020年は「鍵にぎる米大統領選。グローバルスローダウン」だった。AI予測でトランプ敗北、世界の経済成長ダウンを予測した。編集長は予測を誠実に総括している。AI予測は賛否を含め多くの専門知を集めた究極の総合知だ。エコノミストは5つのキーワードを出している。「ワクチンへの戦い」(病原体は特定されている。1918-1920年スペイン風邪は4000万人に死者、日本は内地45万、外地29万。鳥インフルエンザの変異とわかったのは1995年)。「複雑な経済回復」(中国はトンネルを抜ける。アジアの世紀)。「米中対立」(バイデンアメリカの試練。66.7%の高投票率はマイノリティの投票増加。上院では民主が2議席取って50対50、ハリス副大統領に決定権)。「パッチワーク対応」(トランプなき世界)。「デジャブの年(既視感)」(延期となった東京五輪、ドバイ万博。バイデンが選手団を送るか)。「試練の菅政権」、アジアの世紀なのに日本の存在感が薄くなっている。AIの「認識」力にはかなわないが、人間には美意識、宗教、倫理、愛など「意識」がある。全体知で立ちむってゆくべきだ。

IMF世界経済見通し:世界は2017年3.9%、2018年3.6%、2019年2.8%成長。2020年10月予測では、世界は▲4.4%、先進国▲5.8%(米▲4.3、ユーロ圏▲8.3(ドイツ▲6.0)、イギリス▲9.8、日本▲5.3)、中国1.9%、インド▲10.3、アセアン5▲3.4。2021年の世界銀行予測では、世界は4.0%成長、米3.5%、ユーロ3.6%、日本は2020年▲11.2%で2021年は2.5%(アベノミスクは失敗。日本のGDPは2013年レベルに戻った。日本は低成長で埋没。中国は2021年は7.9%成長を予測。

日本の貿易相手国シャア:米国との貿易は1990年27.4%、2015年あたりから15%程度だったが、2021年1-10月期14.8%にダウン。中国との貿易は1990年に6.4%、2021年1-10月期は26.2%とますます重みを増してきた。アジアは54.0%とさらに増えアジアダイナミズムが躍動。

日米株価はの推移:実態経済は悪い(▲5.3%)が、株価のみV字回復。トランプ登場の2017年は19594円、2020年1月23204円、2020年12月30日27444円と40.1%上昇。なぜか?経済対策のマジックマネーの余剰が株に向かったという説が一般的だ。

3つの資本主義が存在:産業資本主義(日本)、金融資本主義(米東海岸)、デジタル資本主義(米西海岸)。金融資本主義の肥大化が株高へ向かい「格差と貧困」が増幅し、世代間ギャップが拡大。株の保有者の72%は高齢者。現役世代6000万人中の年収200万円以下の貧困者は32.1%、高齢者の3割は貯金100万以下の極貧、15%は5000万以上。日本の5割以上が下層になってしまった。1-2割が富裕層、3-4割が中間層、下層は5割。シングルマザーの3分の2は極貧。15-39歳の若者の自殺が増加。5000人以上の自殺。希望のない国になってしまった。

デジタル資本主義:DX(デジタルチランスフォーメーション)とGX(環境)。GAFAMは2019年末に株価時下総額は4.9兆ドル(539兆円)、2020年11月に7.0兆ドル(728兆円)。アップル2兆ドル(210兆円)。日本は、トップのトヨタ22.8兆円、ソフトバンク15.2兆円、キーエンス、NTTドコモ12.5兆円、ソニー12.2、ユニクロ9.1、、、。日立3.8兆円、日鉄1.2、三菱重工1.0(MRJも頓挫、▲10兆円)。

「デジタルプロレタリアート」という言葉まで出現。主役のつもりが単なる部品に。新潮新書スマホ脳」(依存で集中力と考える力が消失、つなぎ合わせる力が不能に)。岩波「ブルシットジョブ」。自分の足、自分の舌、、という生身の人間として生きること。地頭を鍛えよ。

3つの資本主義の渦巻きの中から、新しい秩序を求めて、「新しい経済学」が出てくるだろう。国家主導の経済。鎖国状態。国がどうするのかという子国家主義に引き込まれている。産業資本主義、IT革命の登場による金融資本主義、そしてデジタル資本主義が登場してきた。どうなっていくのか。どうすべきなのか。全体知を追いかけていきたい。 

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 リレー講座の前に、寺島学長と面談。13年間のリレー講座のまとめの冊子の見本を手渡す。喜んでもらった。今日の講義を含めた冊子がもうすぐ完成する。

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VRとZOOMの連携のトライアルに参加。22時から1時間。

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「名言との対話」1月7日。菅野昭正「村上春樹がなぜ世界的な小説家の前線にたっているのか」

菅野 昭正(かんの あきまさ、1930年1月7日 - )は、日本文芸評論家フランス文学者

横浜市出身。浦和高等学校)を経て、東京大学文学部仏文学科卒業。1954年東大助手、1957年明治大学講師、助教授、1972年東京大学文学部仏文科助教授、1982年教授。

1984年に『詩学創造』で芸術選奨文部大臣賞1986年に『ステファヌ・マラルメ』で読売文学賞1997年に『永井荷風巡歴』でやまなし文学賞紫綬褒章受章、1999年日本芸術院賞をそれぞれ受賞。2003年日本芸術院会員。2006年、旭日中綬章受章。2007年、世田谷文学館館長。2011年『慈しみの女神たち』で日本翻訳出版文化賞受賞。2016年、第1回井上靖記念文化賞(旭川市主催)受賞。

現代フランス文学の翻訳が多数あるほか、近現代日本文学の研究も盛んに行っている。1981年から2001年まで「東京新聞」などで文芸時評を担当、『変容する文学の中で』として刊行された。

 世田谷文学館の館長という記述が目に留まった。1995年4月に開館した-世田谷文学館では、2007年佐伯彰一館長が退任し、菅野昭正が館長に就任している。私はこの世田谷文学館は優れた企画力があり今ではファンになっている。仙台から東京に来て以来、訪問した世田谷文学館企画展をあげてみよう。 毎回、人選とテーマと展示内容の工夫が感じられる名企画の連続だ。

「没後10年 井上ひさし展」。写真家・大竹英洋「ノースウッズを旅する」写真展 「六世 中村歌右衛門展」。 「小松左京展」。「原田治と仁木悦子」展。 巨人・筒井康隆展」。「ビーマイーベイビー』(信藤三雄)。「澁澤龍彦 ドラコニアの地平」」展。 「「山へ! to the mountains」展。 「ムットーニ・パラダイス」展。 「映画監督・小林正樹 生誕百年」。 上橋菜穂子と「精霊の守り人」展。「浦沢直樹展−−描いて描いて描きまくる」。「詩人・大岡信展」。「植草甚一スクラップ・ブック」展、岡崎京子展--ノンジャンル、または千の方法。2014年。「水上勉ハローワーク 働くことと生きること」展。 「茨木のり子展」。幸田文展」。2013年。「没後80年 宮沢賢治・詩と絵の宇宙--雨ニモマケズの心展。 「上を向いて歩こう展」。 寺山修司展と山本健吉展.「地上最大の手塚治虫」展。 萩原朔太郎展。「和田誠展--書物と映画」。2010年「父からの贈りもの−−森鴎外と娘たち」展。石井桃子展。2009年第11回世田谷フィルムフェスティバル「名優・森繁久彌」。「久世光彦 時を呼ぶ声」。松本清張生誕100年記念巡回展。 宮脇俊三と鉄道紀行展。

菅野昭正編『村上春樹の読み方』(平凡社)を読んだ。それぞれが村上春樹論を展開していて読み応えがあった。石原千秋「二人の村上春樹」。亀山邦夫「神の夢、またはIQ84のアナムネーシス」。三浦雅士「言葉と死」。藤井省三「中国語圏における村上春樹」。加藤典洋村上春樹から何が見えるか」。

菅野はまえがきの「村上春樹についての走り書き的覚書」と「あとがき」を書いている。あとがきでは、世田谷文学館で2011年の「村上春樹の読み方」という5人の講師の連続講座を開催し、活字にしたものだと書いてあった。近代日本文学研究の成果の一つだろう。「村上春樹がなぜ世界的な小説家の前線にたっているのか」という普遍的な問いで、連続講座をやり、翌年に書籍に結実するというスタイルもいい。今までこの人の専門分野には縁がなかったが、これを機会に今後も世田谷文学館にはさらに注目していきたい。

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菅野昭正編『村上春樹の読み方』(平凡社