人目を引くタイトルと鮮やかな装丁

最新刊「通勤電車で寝てはいけない!」は、全国の書店の店頭に並ぶ前に重版になった。連休明けの9日に配本、その日に重版が決定という連絡が著者にきたのである。配本したら取次ぎの反応がよかったというのがその理由だった。「配本」とは出版社から取次ぎに本を渡すということである。「取次ぎ」という言葉は出版界特有の言葉だが、大手では日本出版販売(日販)、トーハン、TRC図書館流通センターなどが馴染みのある名前である。


通常は各書店から入ってくる売れ行き情報を取次ぎ経由で出版社が入手し、判断し、増刷の量と時期を決定する。今回のような経験は初めてである。


出版業は「委託販売」という販売形態を取っており、出版社から出版された本は、取次ぎと呼ばれる問屋を通して全国の書店に配本をする流通形態になっている。書店は本を買い取って売るのではなく、販売を委託されて売り、売れ残った本は取次ぎ経由で出版社に返品される。これは一部の商品に限定されている再販制度と呼ばれている特殊な流通の仕組みである。


出版社から取次ぎに入った本は、取次ぎが持つ流通のシステムに乗って書店に送られる。送る書店名と量を決めるのは、取次ぎなのである。書店は本の置き場として場所を貸しているという感じになるから、売れ残りを心配す必要はない。残ったら梱包して返すだけだ。

取次ぎは書店の店頭という売り場と、そこから得られる現場情報を包括的に握っているから書店に対してもそうだが、出版社に対しても影響力を持っている。だから取次ぎの反応がよければ、出版社はマーケットの反応以前に増刷の判断をすることがある。今回はこのケースだろうか。


大きな書店にいくと新しい本がおびただしい勢いで店頭に吐き出されていることを実感する。毎日200点のペースである。ほとんどの本はわずかな期間、店頭に並べられて後は出版社の倉庫行きになる。書店では取次ぎから送られた梱包をあけないでそのまま返品されることも実際にはあるらしい。だから、短期間での勝負を出版社は挑まざるをえないため、編集者と営業とでタイトルや装丁に智恵を絞ることが生き残りの重要な条件になる。したがって著者の意向よりも、読者へのインパクトが選定の重要なカギとなってくる。

今回の人目を引くタイトルと鮮やかなオレンジ色の装丁はこういう環境の中から生れた。