顧客の視点

どのような業態においても顧客は、表面上は神様扱いである。小売業においても、交通業においても、医療業界においても、そして行政においてすら「顧客」は建前上は大切にされていることは疑う余地はない。


しかし、私たちが実際にレストラン、眼鏡店、タクシー、病院、役所などで所用を足そうとすると、顧客としての自分を大切に扱わないことに憤る毎日となる。レストランでは、他に客がいないのに、注文を取りに来ない、聞き違えが多い。眼鏡店では若い女性店員が専門用語を使うが、こちらは全く理解できない。タクシーに乗ると、他のライバル会社のサービスを知らないのでこちらが教えてあげる羽目になる。専門病院の集積で総合病院を名乗る病院では患部のみに関心のある医者がとんちんかんな薬をだす。


一人ひとりに悪気はないのだが、全体としては腹立たしいことを経験することが多い。独占・寡占業界以外は、いつの間にかお客が減っていく、ますます顧客に関心が薄れてサービスが悪くなるという悪循環に陥っている企業が多い。

いったいサービスの全体を見ているのは誰なのだろうか。


病院を例に挙げてみよう。まず、大勢の患者がいる。見舞いの家族や職場の同僚がいる。そして医者がいる。看護師がいる。レントゲン技師、薬剤師、会計部門、掃除人、食堂従業員、ショップの販売員、、、、など様々な職種の人々が働いている。しかしどの仕事をしている人も、病院全体の動きを知っている人はいない。それぞれが部分的に病院に貢献しているのだ。


患者はどうか。患者は医者の動き、看護師の応対、掃除の回数、食堂のメニュー、ショップの品揃え、患者相互の情報交換、家族から入ってくる病院の評判などを総合的に見ることができる立場にいる。患者は全てを体験している。だから一人でなく、全体の患者が見る姿は、働いている人たちより視界が広くかつ正確である。


だから、顧客の視点は、組織にとっては本当に神の視点なのである。しかし顧客を大切にすることは、「言うは易く行うは難し」でもある。組織の中ではいつの間にか供給側の感覚が身についてしまって、「客を教育せよ」などという暴言が飛び交うことになる。顧客の視点を身につけると、確かに全体が見えるわけだから組織の内部でも人を納得させることが多くなる。心したい点である。