「プライス 若沖と江戸絵画」(東京国立博物館)−−−蒐集家という人生

気になっていた東京国立博物館で開催中の「プライスクレクション 若沖と江戸絵画展」を観た。


「近世絵画研究者でプライスコレクションを知らない人がいるとは考えられない」といわれる老舗コレクション(江戸絵画を600点ほど蒐集している)の創設者は同志である日本女性エツコを妻に持つ身で、現在76歳である。

20代の若き技師であったプライスは父の友人であったフランク・ロイド・ライトと一緒にタワーを建設する。帝国ホテルの設計者として日本でも有名なライトは、「君はGodのGは大文字で綴るかい。私はNatureのNも大文字で綴るんだ」と語りかけた。ライトにとっての先生は自然の造形だったのだ。プライスは日本の美術の中に、ライトの自然観を超える自然観を見出した。


「千年余にわたり、日本人は、人間が手を加えることで自然を一段と高めようとしてきた。荘厳な伊勢神宮から桂離宮、そして簡素この上ない茶室に至るまで、その創造する力は自然を凌駕しているように思われる。日本人は、松の木の枝葉を切ったり、曲げたり、つかんだりして、その本質だけを残す、その残されたものは、自然の造形より遙かに松の木らしくみえるのだ」(プライス)


そして、日本人は江戸時代の文化を常に高く評価してきたが、絵画だけはそうではなかったというプライスは、自らのコレクションを3つのカテゴリーに分類している。一つは異彩を放つ独特の画風を切り開いた伊藤若沖(1716−1800年)の傑作である。二つ目は「江戸時代の町人」をテーマとした絵画で、丸山応挙とその弟子たちの作品である。三つ目は江戸琳派のグループで、鈴木其一、酒井抱一たちのコレクションである。若沖は絵画というよりグラフィックという印象を持つ人も多く、鈴木其一(1796−1858年)は絵画というよりパッケージのデザインと見紛うような作品が多いという。プライスは、水墨画文人画といった形のはっきりしない作品は好まず、知的な造形をもった作品を選んでいる。


オクラハマ出身の一介の技師であったプライスは、蒐集した絵画から受ける「目の喜び」からたんなる趣味として始めたコレクションは、彼の人生に新しい目的を与えるまでに成長していった。自分が得たこの喜びを多くの人にも同じように体験して欲しいとの考えから、プライスは公開のための様々な試みに協力を惜しまない。オクラハマのプライス邸「心遠館」(火災で焼失した)、ロサンゼルス・カウンティ美術館のジャパニーズ・パヴィリオン(日本美術館)もその一環である。プライスは技師としての「エンジニアの眼」と画面の中に生命を感知する「アニミストの眼」を持っている。

今回の企画展の主役である伊藤若沖は、このプライスによって現代に蘇ったのである。


若沖などの再評価は、日本人によってではなく、アメリカ人によってなされたものである。こういた蒐集家のおかげで今日の私たちは逆輸入の形ではあるが、先達の残した優れた芸術作品を眼にすることができる。そういえば、経営学の神様・ドラッカーも日本の浮世絵の蒐集家だった。


画家の名前でなく、自らの感性を信じて好きな絵を蒐集し続けた結果、そのコレクションは世に知られていなかった画家を掘り出したり、当時の評判の画家をもう一度蘇らせたりすることができたのである。

エツコ&ジョー・プライスコレクションという名前のコレクションでプライスの名前は妻とともにながく残ることになるだろう。

プライスは日本の江戸絵画の蒐集家(コレクター)という素敵な人生を送っているように見える。