「いくつになっても脳は若返る」(ジーン・D・コーエン著)

随分と昔に、「流動性知能と結晶性知能」という研究がアメリカの新聞に載って話題になったことがあった。流動性知能とは脳の機敏さで25歳くらいがピークとなり、後はだらだらと低下していく。しかし結晶性知能は経験から学んだ知識を活かす脳であり、こちらは年齢が上昇することによってあがっていく。トータルでは中年から老年になってもほぼ横ばいで推移する。こういう理論だった記憶がある。


ダイヤモンド社から出た「いくつになっても脳は若返る」(ジーン・D・コーエン著)の翻訳書を読んだら、そのことが書いてあった。この本では結晶性知能とは「学校生活や日常生活から学んで蓄えられた情報や語彙を指しています。また問題解決に応用される技能や知識も含まれます」と説明してある。脳については次のように記している。


・経験や学習に応じて、脳は自ら変化を続ける

・新しい神経細胞が、生涯にわたって生成され続ける

・感情を司る脳回路は、年齢とともに成熟し、バランスがよくなる

・年長者は、若年者よりも脳の多くの場所を同時に使う


この本はリタイヤした高齢者に1000時間以上の対面インタビューを行ってきた著者の報告であるから、事例が豊富でリアリティがある。リタイヤメントした人たちの大半は新たな峠を登ろうとする人たちだったそうだ。その年長者に対して次のようなアドバイスをしている。


・お金のプランに加えて、時間のプランを用意する。

・バランスのよい社会的ポートフォリオをつくる。

・長くやると、はまっていく。

・定期的に、長く活動を続ける。

・親友づくり。

・恩返し。

・学習活動は健康と自立を強化する。

・回想録、自伝、家族史を執筆する。


また、いくつか目についた言葉を拾ってみた。

・年齢を重ねるほど、奇抜な問題を解決する能力や創造性が身につく。

・創造性が健康をつくる。

・芸術活動が病気を予防する。

・コントロール感が免疫システムを強化する。


最先端の脳科学の研究成果と精神科医としての35年の臨床経験が結びついた、後半生の創造的なライフスタイルを提案する書物であるが、高齢者だけでなく働き盛りの人にも勇気を与える内容だ。