「武士の一分」

山田洋次監督の時代劇三部作の最後を飾る映画「武士の一分」を観た。

名作である。


木村拓哉演じる下級武士の主人公、檀れい演じる清潔感あふれる可憐な妻、中間役の笹野高史、敵役の坂東三津五郎、剣術の師匠役の緒方拳、切腹する小林稔侍、、、。

それぞれの役を高いレベルでこなしている。

特に木村拓哉は、普通の下級武士の日常、毒見役という仕事のたいくつさ、失明を知った時の絶望、妻を離縁するときの怒り、見えぬ目で始める剣術の稽古、剣道の有段者の腕前の鋭い太刀さばき、道場での師匠との手合わせ、決闘シーンでの素晴らしい身のこなし、妻を許す時の所作などそれぞれの演技が時間と思考によって練りこまれている。


富田勲先生が音楽を担当したというので、珍しく音にも気をつかって映画を観るという経験をした。音楽の効果は映像に彩を与え、観る者の気持ちを昂ぶらせてくれる。

バイロリン、チェロ、ハーブなどの洋楽器、

尺八、琵琶などの和楽器

クロマティックゴングやタブラなどの東洋の民族楽器、

などの音色が要所、要所に配置されていた。

尺八は、先日のBS報送のブッポウソウの番組で聴いた藤原道山だった。


この映画はいろいろな分野の天才たちが奏でるシンフォニーであると感じた。



購入したプログラムに載っていたそれぞれの一分。


 山田洋次「映画を観てくれる、さまざまな観客の立場で、僕はものを考えているのか?

      観客の立場になって表現し得ているのか?」


 檀れい「この仕事(女優)は自分の天職になったら嬉しいと思っています。--   

     人として真っすぐに生きていかないと、その人が全部画面に出てしまうと思います。

     だから自分を大事に生きていくこと。それが私の「一分」ですね」


 笹野高史「監督が要求することに、絶対嫌だとは言わないこと。出来ないといわないこと。

      それだけは守ろうと思っています」


 小林稔侍「生業(なりわい)。ちょっと古典的ですが、一寸の虫にも五分の魂」


 桃井かおり「私の一分は雇われないこと。どんな作品でも、自分で出演したくて、出ている。

       言いたくて、その台詞を言っている。誰に頼まれているわけでもないのに、

       俳優なんかやっている。そんな感じです」


 坂東三津五郎「日本にこだわることが、僕にとっての一分ですね」



演技と映像の細部をじっくり味わうために、もう一度「武士の一分」を観ることにしたい。