「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら誰も君を下足番にはしておかぬ」(小林一三)

何のために仕事をしているのか。

生活をしていくため、日々を暮らしていくという理由はもちろんであるが、それだけではない。誰だって自分の仕事の意義を見出して、いい仕事をしたいと思いながら仕事をしている。その結果、何が得られるかというと、仕事が得られるのである。よく間違える人がいるが、お金ではない。そのことがわからずにお金のことだけしか考えていないと、結局いい仕事ができず、お金も手に入らないままだ。


中曽根内閣時代の経団連の会長に土光敏夫さんという人物がいた。彼は石川島播磨重工業東芝の社長を経て経団連の会長に就任した人物であったが、「仕事の報酬は仕事である」という言葉を残している。

つまり、自分の仕事についてきちんと考えて、努力をしながら自分の能力も磨き、いい仕事をしていれば、また次に仕事が回ってくる。そして、次の仕事でもいい働きをし、それをどんどん重ねていけば、もっとやりがいのある仕事や大きな仕事を任されるようになるということである。

いい仕事をしていると仕事が連鎖していくのである。

自分のした仕事の対価がお金なのだから、いい仕事をするということに集中していれば、徐々に仕事もお金も自分のもとに回ってくる。それを、お金のことを最初に考えてしまうとおかしいことになってしまう。


現在、利益をあげればそれでいいというような企業のあり方が問題になることが多い。そういう企業は、いい仕事が先だということを社長が理解しておらず、そして社長の言うことを鵜呑みにする社員も多いのだと思う。

上司の言うことをそのまますべて鵜呑みにしてはいけないのである。

もちろん上司の指導や方針に対して素直な姿勢を持つことは重要だが、それは鵜呑みにすることとは違う。

上司の指導や方針だって間違っている時があるし、考えが足りない場合もある。その時に、上司の言っていることの意味を考え、おかしいと思ったり、もっと改善できると感じた時は口に出すことが、素直に聞くということである。

おかしいと思ってもただ従うだけで、より良い方法があることにも気がつかないということが、鵜呑みにするということである。

鵜呑みにしてしまう原因は、考える社員が少ないということからきている。今の日本の問題は、考える人が減ったということだ。


優良な企業には考える社員が多い。

私は企業から講演を依頼されることが多く、講演後に感想のアンケートを書いてもらうのだが、大抵の企業の社員は「ためになりました」、「よかったです」という感想が多い。

しかし、トヨタ自動車に講演に行った際のアンケートには、「あの部分はどうしてですか」「私の仕事ではこうなのですが、どうすればよいのですか」という質問が多かった。何事も鵜呑みにしないで考える社員が多いということだろう。


大企業でも、社長の言うことが間違えていたらつぶれる。どのような部門や現場でも、会社全体としての位置づけ・役割をよく考えて、自分の部門の課題を咀嚼して語れるリーダーがいないと危ない。

そのようなリーダーの下では、部下も自分の仕事を深掘りし、そのリーダーが間違っている方向に進んでいればおかしいことに気がつくからだ。