女性の部下と男性の部下

私はかつて女性の部下を数多くもったことがある。そこでわかったことであるが、上司の立場から考えてみると、男性の部下よりも女性の部下の方が接し方や指導方法がずっと難しかった。なぜなら女性と対峙する時は、相手の人生と真っ向からぶつからないとやっていくことができないからである。

男性は、仕事や組織を生きている人が多いが、女性は、人生を生きている人が多いと思う。言い換えると、男性は仕事を中心に生きているが、女性は人生の中に仕事があるということだ。


男性は、仕事を人生における最優先事項として扱う人が多いので、興味や悩みも昇進や異動などに関することが多い。そのようなことについて相談を受けたとしても、自分の経験や同僚や上司の話も参考にすることができるので、何かしらの答えや指針を示してあげることができる。


しかし、女性から受ける質問は、現在行っている仕事の意義、それが今後のキャリアに与える意味、次の仕事が自分の生活にとってどういった影響があるか、自分の仕上げた仕事の反応など、ケースバイケース、その人その時々によって答えが変わるような深い相談が多い。

だから女性の部下を多く持った上司は大変だ。仕事の意義などを聞かれたら的確にアドバイスしなければいけないし、その人がもつキャリアやその現状、将来設計まで考えて指導しないと相手は納得してくれない。


かといって、女性だからと意識しすぎて機嫌を取ったりちやほやしても相手は喜ばない。女性はそれほど甘くないし、そのような魂胆はすぐに見透かされる。当然のことを言っているようだが、実際のところはそれができずに、部下である女性を使えていない上司が多すぎる。

部下との信頼関係を構築するためには、仕事上の関係である以上、あくまでも仕事中心で行動することが当たり前なのに、人間関係を良くしようということにばかり注力して、その人の能力向上や仕事の出来についての話を正面からしないから部下からの信任が得られないとに気がついていないのだ。


そのような考えで接していれば、もちろんぎりぎりの仕事を求めることになる。しかし本当に必要なことならば、たとえきつい課題を課しても、厳しく指導することがあったとしても問題ではない。その過程でどのように励ましていくかが上司の役目なのだ。女性には激励が重要である。男性を励ますような叱咤では効果が出ないことも多いので注意しなければいけない。

また、一つ問題が解決した際や成長がわかった際などには、次の課題を与えることも大切だ。それによって相手が成長する道筋をきちんと伝えてあげることができれば、がんばることができるからだ。


航空会社に勤務していたとき、客室部門に長くいたことがある。機内のサービスなどを行う担当のスチュワーデスは女性にとっての花形職業だった。

かつては昇格して現場から離れたくないという女性、管理職から逃げる女性が多かった。昇格させようとしても本人から「やりたくない」と苦情を受けることが多かったのだが、お客様と直接的に接すること、現場に出ることばかりが仕事なのではなくそれをマネジメントすることは重要な仕事だということを会社全体で示し始めてからは、逆に「管理職をやらせてくれない」という苦情が多くなってきたという経験がある。

仕事の意義をきちんと伝えることは、指導の上でとても重要なことなのである。


選択する自由は広がり、制度面での保障は改善されてきているとはいうものの、出産や結婚など、女性にとって避けて通ることが出来ない問題は残っている。仕事のことだけ集中して考えればよいのではなく、女性は人生そのものを考えた上で現在や将来の仕事を考えなくてはならない。

女性は男性よりも真剣に考えなくてはならないことが多いので、上司としても男性に対する時よりも力を入れて真正面から向かい合わないと心の交流までは進まない。

逆に男性にも、漫然と仕事をしているばかりではなく、女性のように真剣に人生を考えよと言いたい。