連載「団塊坊ちゃん青春記」2−−探検部以前2

大学には受け持ちの教授がいます。私のクラスはM先生という、ドイツ語の先生でした。この人は、昼間は「イッヒ、デルルルル」とかの発音をしながら、あまり面白くない授業を行います。授業が終ると、「今日はどうですか」と酒によくさそっていただきました。この先生は、酒が好きで一日に何軒も大学付近の飲み屋をまわります。ベロンベロンに酔っぱらってしまうのであとが大変なのです。それにこの先生は金払いが悪いらしく、どの店に行っても、「先生今度までにはお願いネ。」と飲み代の請求をされています。


このM先生には子供がいないようでしたが、ある日私は一度何かの機会にお目にかかったことのある奥様と少し話をすることがありました。子供っぽい少年であった私を気に入ったらしく奥さんは私の事を、「とてもかわいい学生さん」と先生に話をしたらしいのです。それ以来私は、「女房の恋人」と先生から呼ばれてしまいました。


したがって、先生が酔っぱらって道ばたに寝ようとする時に送って行くのはいつの間にか私ときまってしまいました。二人位で先生をかついで送り届け、玄関のブザーをならすと、奥さんが窓からのぞき、先生だとわかるとカギをしめてしまうのです。これにはおどろきました。冬の寒い時期にこごえながらブザーを押しつづけたものです。やっとあけてくれると今度は先生がまた、「上がって飲んで行きなさい」ときます。奥さんの顔と先生の命令との板ばさみ、苦労したものです。しかし、私が送って行くと、比較的奥さんの気げんがよかったので、この先生のおもりは私の役目となっていました。



もう冬に入ったころ、私は、先生の家のある方向にある丘までマラソンをしました。この頃はまさに閉塞状態で自分で自分がわからなくなりしょんぼりしていた時期です。私は、「主体性の確立」という言葉が当時好きでした。そのためには、異る立場のそれぞれの人の意見を聞き、どれが正しいのかを考えたうえで自分の立場を決定しようというアプローチをとっていました。その結果全く頭が混乱してしまっていたのです。


マラソンで丘のうえまでのぼって夕陽をじっとみていて、ハッと気がついたことがありました。「そうか、わかったぞ。自分は今まで主体性をつくるために、色々な意見を聞いてきたが、実は、主体性を全く喪失する結果になってしまったのだ」そしてそれはなぜかと考えると、自分は今まで言葉をもてあそんでいただけなのだということに気がつきました。


行動しない言い訳をごねていたのだとわかった私は、「行動しよう、何でも良いから無目的に行動だ。」と考えました。この夕陽をみながら悟ったことが私の大きな転機となったようです。こうして、私は従来から少し関心を持っていた、探検部に入ることにしました。大学一年の冬のことです。