セカンドライフ体験記

午後、近所の40代の友人宅で、21才の大学生の息子とセカンドライフを楽しませてもらった。


一つの部屋にマック1台とウインドウズ2台を並べて同時にセカンドライフを探検するという趣向である。アバターと言って友人と息子は同じ女性の姿、私は筋骨隆々とした若い男性の姿を選んで入る。息子が使ったマックが一番メモリー容量が多く、2番目が友人、私のノートパソコンの容量が少なかった。

セカンドライフへの入り口でテレポートという機能を使い、3人そろって会話をしたり、アバターを動かす練習をまずする。前後左右、そしてフライという機能を使うと飛び上がって空間を垂直に移動したり、空を飛ぶこともできる。私以外の二人はコンピュータゲームに慣れているのでうまいが、私のアバターは壁にぶつかったりしてなかなかスムーズには動かない。


この家の回線は100メガという大型の容量なのだが、3人で立体空間を動くということになるとカクカクというように滑らかな動きにはならないのは仕方がないところだ。また、30分もするとノートパソコンのバッテリーが無くなってしまうから、随分とエネルギーの消費が早い。


練習場のビルを出て早速、日産自動車のアイランドに飛んでいく。赤い色をした巨大な自動販売機が立っていて、中にいろいろな色やフォームをした車が並んでいる。トイレの壁に暗証番号が書いてあり、それをみつけて自動車の自販機に入力し、欲しい車の番号を押すと青い車が路上に登場した。もちろんこの車を動かすこともできるが、車の中に入って運転席に座りハンドルを動かす感覚で走ることができる。街はやや赤みのかかった夕方の時間の風景だ。どうやらこの空間には「時間」が存在するらしい。

ドアを開けることもできる。左ハンドルの外車仕様の車を動かすと風景も動いていく。車の色を途中で変えることもできる。ブルーをシルバーに変えみる。こういう工夫を加える中で愛着が涌いてくるような気もする。


まず、日本人コミュティに出かけることにした。ジャパンショッピングモール、ヒルズ、ビーチなどがある。モールを3人で散策する。3Dの立体像であり、自分の視点で世の中が見えるのでリアリティがある。右に回ると視界が違ってくる。相手の顔は見えるが自分の顔は見えない。これは実世界と同じだ。性別や顔や肉体、そして服装を自由に選び、架空の人物に変装して世界を歩いているという感覚だ。

ジャパンシティには、セブンイレブンビッグカメラ洋服の青山ブックオフの看板が見えるので、降りてみた。どうも偽者らしい。ビッグカメラと見えたのは、「ビックリカメラ」という看板であり、土地のレンタルの広告がある。1784ヘーベで月1400円だった。


銀座を歩く。銀ブラだ。ビルの中には様々な店が出ている。「日本の喪服」、「ふんどし」、「銃器」、「ジェスチャー」、「入墨」、「下着」などが売られている小さなショップが並んでいる。銀座のビルの中にもまったく人影がない。死んだ街のようだ。下北沢の高架下にお店を出しませんかという広告も見かけた。高円寺という区画もあるらしい。

映画「プルコギ」の宣伝ポスターを見かける。焼肉ムービーの宣伝だ。大学生の息子がバーコードがあるといって、携帯電話をこちら側の世界でとりだし撮影するとURLが入手できた。そこをクリックすると映画の公式サイトが現れた。あちら側の世界とこちら側の世界がこういう形でもつながっているのか。この広告の近くでは肉を焼いていた。


ビルの外に出る。時折人が通るが誰も挨拶もしない。

私は操作に行き詰ったので、息子の画面を観察することにした。

近くに来たアバターとの会話が始まった。

「可愛いですね」

「看板を読めるんですか」

「池袋からです」

「ところで双子ですか?」

こういう会話が文字でわされているチャットを見ていると、背景の木々が風で揺れているのがわかる。すごくリアルな風景だ。


「先週からやている」

「4回目のログイン」

「面白いですか?」

「なんか面白いですよね」

違う人が寄ってきた。ここで4人。

「5月の連休に始めました」

「みんな最近なんですね」

シマウマの姿をしたアバターが現れる。

「自分でつくったんです」

今度は黒ずくめの衣装を纏った人物が入ってくる。

「今日で3日目です」

「ここだけは人口密度が高い」

「外国に行くにはパスポートはいらないんですか」

相手の姿を見ながらのチャットは面白い。

「SLの歩き方ってサイトがあって、、」

SLとはセカンドライフのことだろう。略語や隠語が多い。

W:笑い

あり:ありがとう

よろ:よろしく


どんどん人が増えてくる。今度は狼の姿をしたアバターだ。合計8人が集まっている。

シザー・ハンスという映画の主人公の姿をした人もいる。

「踊りのバイトで、4リンデンドル稼いだ」

「サウナに行って春だけでも10リンデンドルもらえる」

ここでも情報が大切だということがわかる。

「備え付けの機械が、そこにいるだけで20分で20LD(リンデンドル)くれる、、」


画廊が目に入った。オーストリアンアートだ。

またアクセサリー、洋服、ステンドグラスを売る店もある。


道を歩くと、何人かが歩いているのが目に入るが会話はない。

この世界に入ってくる人種はネットゲーマーが多い。彼等はきっかけがないと喋らない。

ネットゲーマーという人々は戦いというような目的や倒すべき目標がないと燃えない。

セカンドライフという世界には「自由」があふれている。自分で何をするか、つくるか、」誰と交流するかを決めて行動して、コミュニケーションをとっていかねばならない。自由が不自由に感じる段階のような気がする。

知り合い同士がこの世界で一緒に行動するのがいいかもしれない。今回は3人の知り合いがいたので、安心して歩くことができた。この世界で出会った人とフレンド登録をすると直接目セージを交換することができるから、友人や親友が生れてくるのだろう。


リンデンドルは実世界の1ドルに相当する。


セカンドライフという世界では日本円の価値で30万円で一つのアイランドを手に入れることができる。ここに建物を建てたり、土地を貸すことができる、そしてこのアイランドに建物などをつくってアップロードするとセカンドライフ社に金を払う、こういう仕組みになっている。この世界に住むには有料会員になって居住権を得る必要がある。この額は2000円くらいだと聞いた。


6−7年前だっただろうか、レイランドという会社の同じような世界に入っていたことがある。3階建てのビルを建てて久恒バーチャル総合研究所という看板を掲げた。2階にはマホガニーの机などで装備された豪華な所長室があって、裏庭には混浴の温泉がついており、大吟醸専門のバーを用意した。この総研でいくつもの部屋をつくって教え子を含めて研究を行っていこうという構想だった。残念ながら途中でこのサービスはなくなってしまった。地下にもうひとつの世界があるという不思議な感覚で、アバターを使って楽しんだ経験を思い出す。


このセカンドライフも同じような志向ではあるが、実際の経済世界とのリンケージがあることが大きな違いである。コンサルタント業や建築業なども成り立つ。


どういう方向に進化していくのかわからないが、それはこの世界に住む人た次第だということになるのだろうか。


気がつくと3時間以上の時間が経っていた。