連載「団塊坊ちゃん青春記」第16話---顔がひん曲がった2

郷里に帰り、名医と云われているM先生にみていただき、毎日注射をして、奇跡的に短期間で治りましたが、その間、実に色々と不便なことがありました。


皆さんには想像もつかないでしょう。先ず、夜寝る時には、左の眼に眼帯をします。なぜなら、左半分の筋肉は一切動かないので、まぶたの筋肉が働かず、眼を閉じることができないのです。寝ている間にゴミが入るので、その防止のため眼帯をしなければなりません。食事もひと苦労です。舌の筋肉が半分しか働かなくて、左半分は全く味を感じません。


又、お茶を飲む時、左側からこぼれないように顔全体を右に傾けて飲まなければなりません。さらにもっと情けないことは、時々、自分の手で神経のマヒしている左半分の顔をマッサージする必要があることです。人間の筋肉は使わないと退化して縮少してしまうというのです。こうしないと、冶癒した時に、左右が対称にならないのです。すでに、就職決まり、あとは、もう一度、配属を決定するための面接が、東京であることになっていました。こんな顔では、どの部門も採ってくれないのではないかと、どんなに心配したかわかりません。


それから数年後、テレビを見ていた私は驚ました。ロッキード事件で苦境にあった田中角栄首相の顔がゆがんでいたからです。マスコミは、連日、顔面神経マヒでゆがんでしまった田中首相の顔をテレビでさらしています。私は同病者として、このようなことは許せないと、マスコミに腹をたてました。そして、もっと許せない言葉にであいました。


それは、テレビで、社会党のN代議士が、「私は母の言葉を思い出しました。私の母は、嘘をつくと口が曲るといっていました。田中首相は口が曲ってしまいました。これだけでも、田中が嘘ついていることがわかる。やはり母の言葉はあたっていました。」と云っていました。田中首相の口惜しさが、思いやられました。私は、その後、栄養に気をつけるよう努力し、嘘をつかないよう心がけている次第です。