連載「団塊坊ちゃん青春記」第18話---泥棒と一緒に寝た話2

泥棒君にこわされた部屋の鍵をとり替えるのも面倒と、それから一週間、鍵もかけずに出勤です。


ある明方、そう午前四時頃だったと思います。見知らぬ若い男が、私の部屋に入ってくるのに気がつきました。その男は、ズボンをはいていないのです。「寒い、寒い」と口走りながら、私の寝ている布団の中に入って来ました。

「お前は誰だ」と聞いても「寒い、寒い」と云って、私の布団にとうとうもぐり込んでしまいました。しょうがないので一緒に寝ていますと、その男は、私のふとんを少しでも余計にとろうとします。私も負けずに引張るのですが、すごい顔をして、にらみつけられてしまいました。

数時間後、ふと目を覚ました私は、隣に人が寝ているのに気がつき、「そうだ、ゆうべ誰かが入って来たなあ、もしかしたら友達だったのかも知れない」と思い、顔をのぞきこむと、ひげをはやした全く見たこともない男でした。起こそうかと思ったのですが、ぐっすり眠っているので悪いような気がして、そのまま出社しました。


その日の夕方、私の部屋の一階「むさしの」という飲み屋のママから電話がありました。「久恒さん。きのう誰かあなたの部屋に泊ったでしょう。」「ええ、知らない奴が泊ったんです。」「のんきな人ねえ、今、その人がお店に来ているから、かわります。」

その男が電話に出てきました。「申し訳けありません。実は朝起きたら、知らない部屋に寝ていたのです。部屋中をみたら、どうも、久恒さんという人の部屋らしいことがわかったので、ママに聞きましたら、いつも来るお客さんだというのでお電話しました。どうもすいません。」とあやまるのです。

当方も別に何か損害があったわけでもないので、「かまいませんよ」と云うと、相手は「ところで、ボクのズボン知らないでしようか」とききます。「たしか、あなたは、入ってくる時、ズボンをはいてなかったですよ。」と答えてやりました。


しかし、一体この男は、ズボンなしで家まで帰ったのでしようか。この男、愛川さんという人で、コンピューターの会社に勤めているらしいのですが、その日のうちに手みやげを持って挨拶に現われました。

私もいろいろとエビソードの絶えない男ですが、このような愉快な経験ははじめてなので、この愛ちゃんとはその後、良い飲み友だちになってしまいました。


この愛ちゃんは、「むさしの」でぐでんぐでんに酔っぱらったあげく、二階に上って、どこか空いてる部屋で寝ていたのだが、明け方になって冷えてきたので、丁度、泥棒に入られて、鍵がこわれている私の部屋に入って来たということのようです。



ちなみに、彼のズボンは、他の空部屋から発見されたそうです。この話は、私の、その当時いた職場で有名になってしまいましたが、なにせ話のストーリーが長いものですから、そのうち間違ってしまい、女の子から、「ねえ、久恒さん、あの話してよ、泥棒と一緒に寝た話。」と云われてしまいます。私は、別に泥棒を、家に泊めたつもりはないのですがねェ。