「ウェブ時代をゆく」(梅田望夫)を読む・2−−「魔の15年」と「

梅田望夫は20年近いコンサルタント業の中で、大企業で働くビジネスマンを観察し続けてきた。この本では「高速道路」の延長線上の高く険しい道と歩く人の少ない「けものみち」という比喩で組織と個人を語っている。梅田自身は大組織で働く適性がないと判断し、けものみちを歩んできて今日の高みに立っているが、「日本株式会社」のメインプレイヤーを見つめる目は冴えている。


大企業では「30歳から45歳」の15年のすごし方が大切であると語っているが、そのとおりだ。
大きな組織では20代はまだ何者でもない修行の身であるからさほど深刻ではないが、30歳を迎える頃には何かをこの組織で為したいと希望している「志」ある若者は、自らの適性と専門性の構築についての悩みに襲われるケースが多い。だが自ら就きたい部署に配属されることは希でその時点での毎日の仕事と自分の意識とのずれに苦悩しながらハードワークを重ねるという人が多数である。

30歳から45歳という「魔の15年」をいかに過ごすかによって自らの将来が大きく左右される。この時点で遠い未来を考えずに目の前に与えられた小さな問題を心を込めて一つ一つ解いていくという心構えを持って、仕事に精を出し続ける。そうするともう少し大きな問題が与えられる。それを解くとさらに大きな問題を提示される。大きな組織においてはこの連続の中で人は育っていくのである。そして40歳を迎える頃になると重要な部署で仕事をしている自分を発見することになる。
梅田のいうように大企業は巨大な社会であり、舞台が大きい。この大舞台という大空間の持つ利点は大きな人物に育つ可能性があるということでもある。大組織はどのような分野であれある分野の最先端を走っているものだ。先頭ランナーは時代と並走しているから「見晴らし」がいいのである。大きい魚になる近道は大きな川に住むことである。

大組織においては魔の15年を息せききって登りきって40代半ばを迎えた人は、見晴らしが一気によくなる。その人は眼前の細く厳しいルートを登っていくことができる資格を持つことになる。一息ついた後そのまま頂上に向けてアタックしていくこともいいだろうし、それまでに蓄えた力を携えたまま他の山に登る道に逸れていくことも可能になる。


さて、梅田は「大組織で成功できる要素」として7項目を挙げている。
1.自分の生活や時間の使い方を「未知との遭遇」として楽しめる
2.与えられた問題・課題を解決することに情熱を傾けることができる
3.何を為すべきかへのこだわりがあまり細かくなく一緒に働く人への好き嫌いが少ない。
4.ルールを与えられるとすぐに習得してその世界で勝つことに邁進する
5.多くの人と力を合わせて大きな仕事をしようとするチームプレイヤーである
6.長時間長期の「組織へのコミットメント」をいとわず、それを支える持久的体力がある
7.組織や仕事への使命感のほうが、個の志向性よりも価値が高いと考える

いくぶん大組織の中で活躍する人々の姿を戯画化している面もあるが、この観察にはほとんど同意する。こういう人であれば間違いなく重要なポジションにたどり着けるだろう。確かにそのとおりなのだが、外面的にはそうでも「使命感」と「個の志向性」の相克にフラストレーションを感じたり、人に対する苦手意識に毎日悩んだり、長時間労働と家庭の調和に苦しんだりしていることは指摘しておきたい。そういったことに何とか折り合いをつけて仕事に励んでいるのである。

梅田の目線は大組織適応性の不足する自分と同じ志向性を持つ若者に注がれている。
ウェブ進化は大組織というリアルな大空間に生きる人にも恩恵を与えるが、それ以上に日本の息苦しい風土の中で生きにくい若者に大きな空間を与えるから、今までより大きな可能性が開けている。だから若者は当面は新時代の情報技術を武器を携えてサバイバルを目標とし、生涯を通じて好きを貫けとアドバイスする。

今まではけものみちを歩くには勇気と諦念と努力が必要であった。しかしいまや高速道路を走る力も手に入れているし、けものみちを歩む道もあることがみえてきた。可能性が大きく広がったということだろう。こういった時代にあっては人生の経営資源の最上位に「時間」がくる。自分の関心を持つテーマに没頭できる時間を多く持ち、脇目をふらず労力を注ぎ込むことによって、個人にとって新たな地平が出現するという可能性が開けてきた。

大組織適応性の高い人もそうでない人も、そういった資質の多くは「性格」によっている。「心構え」と「心がけ」に重心があった働き方、生き方論にも、「性格」という要素をもっと加味して考える必要がある。この点も深堀りしたい点である。
(続く)