稼ぎと務め

和田秀樹さんのベースは精神科医だが、受験技術や心理学関係の本も多い。この人の出版の量はすさまじく、ある年には年間50冊ほどの本を出版していて、確かある年1年間で最も多くの本を出した。最近のニュースによると和田秀樹監督作品「受験のシンデレラ」がモナコの映画祭で最優秀作品に選ばれたという。私は見ていないが、この人は映画をつくることが長年の夢であり、本を多量に出版していたのは映画づくりのための資金稼ぎだったという。

このニュースで想い出したのだが、80歳近くの今日も継続して質の高い本を出し続けファンも多い名著「知的生活の方法」の著者・渡部昇一さんも、最近ある雑誌で子どもたちが音楽の道に進んだこともあり、高価な楽器の購入のために本を書いて稼ぎまくったと述懐していた。

「気くばりのすすめ」が大ベストセラーになった鈴木健二さんは、NHKの名アナウンサーとしての激務をこなしながら、出版社からの注文に応じて本を長い間継続的に出していた。この人は親を含む家族のために大きな家を建ててしまい、その借金返しのために猛烈に働いたと後にある本で多作の原因を説明していた。

「年収300万円時代を生き抜く経済学」で多くの読者を獲得した経済評論の森永卓郎さんのブログをみると日本全国各地に講演に歩いていて、講演の回数は尋常ではない。この人はミニカー蒐集を趣味としていて、最近は雑誌などでミニカーコレクションの前でにっこりしている姿を見ることが多くなった。森永さんの夢はミニカー博物館である。この博物館の建設資金をまかなうために本を書き、テレビに出て、講演を続ける毎日だ。


この人たちに共通しているのは、書きたい本を書き続けているのではなく、注文のあったテーマの本を出し続けているということである。それは多くの人に自分の考えを知ってもらいたいということもあるだろうが、本の出版に付随して入る印税などを自分が本来やりたかったことに使ったり、家族のために背負った借金の返済とする、そういったモチベーションに裏打ちされていたということだ。だからある時期、あるいは長い間にわたって猛烈に働いたいうことが本当の理由だろうか。

「稼ぎと務め」という言葉がある。大人というものは一家を支えるために働いて稼ぐだけにとどまらず、公のためにも貢献することも大事で、その両輪で走らなければならないという主張を表すキーワードである。
生活の糧を得るための仕事(稼ぎ)と、自分や家族の精神的な幸せのための行動(務め)を意識しながら、生活と人生を統一していく生き方も素敵である。